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長崎県の葬儀における作法としきたり

長崎県の葬儀しきたり

県内に存在する島の数が日本一の長崎県には971の島があり、そのうち74島は人々が暮らす有人島です。
島嶼部は対馬島地域・壱岐島地域・五島列島地域・平戸諸島地域・西彼諸島地域の5つのエリアに大きく分けられており、有人島だけでも県域の約40%を占めます。

また「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が2018年に世界文化遺産に登録された長崎県は、キリスト教徒の縁が深い地域です。

こういった事情から地域ごとに文化習俗が異なり、葬儀にまつわる習慣も例外ではありません。
そこで本記事では、長崎県の葬儀における風習やしきたりについて詳しく紹介します。

地域ごとに異なる長崎県の葬儀

長崎県における葬儀の流れは、おおむね西日本の葬送習慣を踏襲していますが、島嶼部が多いこともあり地域ごとに違いがみられます。
またお盆の過ごし方やお墓など、他県と大きく異なる点もあるようです。

御目覚まし

生米

長崎県では、通夜式は遺族と親しい親族のみで過ごすのが一般的で、大規模な「通夜振る舞い(つやぶるまい)」を行うケースは少ないようです。

そんな長崎県の中でも島原市周辺地域の通夜では、近隣住民がお米などを差し入れる「御目覚まし」という習慣があります。
かつては各自が5合~1升の米を持ち寄ったようですが、現在では数百円〜千円ほどの現金を「御目覚まし」と表書きした封筒に入れて、遺族に渡すことも多いようです。

「御目覚まし」の由来は定かではありませんが、故人の供養を通して遺族が「仏法に目覚めるように」または「故人が再び目を覚ましますように」など諸説あるようです。

水かけぎもん

水かけぎもん

対馬地域では、故人の着物や衣服を裏返しにして吊るす「水かけぎもん」と呼ばれる風習があります。
「逆さぎもん」とも呼ばれ、吊るされた着物に7日間水をかけ続け、常に濡れた状態を保つというしきたりです。

「死の穢れ(けがれ)を洗い流す」といった意味合いを持つ習慣といわれており、神道の影響が感じられます。
同様の習慣は東北地方や関東地方の一部でも行われており、「七日ざらし」と呼ばれています。

火葬のタイミング

長崎県では葬儀後に火葬を行う「後火葬」が主流ですが、県南部の雲仙市、島原市、南島原市周辺地域では葬儀前に荼毘に付す「前火葬」が行われています。

「前火葬」の地域における葬儀は遺骨を祭壇に安置して行う「骨葬」となるため、葬儀から参加した場合、お顔を合わせてのお別れが出来ません。
県内でも習慣が異なるため、事前に周知しておく必要があります。

お盆の習慣

精霊船

長崎市を中心とした地域では、お盆の8月15日に「精霊流し(しょうりょうながし)」が行われます。
華やかに装飾された「精霊船(しょうりょうぶね)」が、大量の爆竹を鳴らしながら町中を引き回され、想像以上のにぎやかさです。

「精霊船」の長く突き出した船首(みよし)には家紋や家名・町名が大きく記されるため、知人の逝去を「精霊流し」で知ることもあるようです。

お祭りと見まごうほどのにぎやかさの中に、家族を亡くした遺族の物悲しさが入り混じる、非常に複雑な雰囲気の風習です。

他県とは異なるお墓事情

長崎県のお墓は、さまざまな部分から構成されており、他県の墓石とは大きく異なります。
まず墓地区画の大きさですが、一般の方でも4㎡以上の区画を利用される方が少なくないようです。

それぞれの墓石の周りには囲いがあり、門から入るようになっていて、墓地区画内にベンチが用意されています。
特に大きなお墓には石のテーブルや椅子が設けられ、お墓で簡単な食事を取ることもできるようです。

お盆になると夕方に大勢の人々がお墓を訪れ、お墓の前に提灯を灯してロケット花火をあげます。
その際にお酒や食べ物を持参して、お墓の前で飲み食いをしながらご先祖様をお迎えするとのこと。

お墓に長時間滞在することを想定しているため、長崎県のお墓は他県とは違った構造になっているようです。

こういった習慣は中国由来とされていますが、長崎県のお墓には他にも中国からの影響を感じさせるものがあります。
他県のお墓には墓石の奥や横に卒塔婆を立てるのが一般的ですが、長崎県のお墓では墓石の横に土地の神様「土神様(どじんさま・つちがみさま)」が祀られるのが一般的です。

長崎県の墓石に金文字(文字を彫った部分に金色の彩色を施したもの)が用いられるのも、中国盆の「土神様」へのお供えとして「金をもやす」風習が由来といわれています。
長いあいだ大陸との玄関口の役割を担ってきた長崎県は、想像以上に中国との歴史的なつながりが強いようです。

長崎県に残る伝統的な葬儀のしきたり

長崎県も九州の他県と同様に浄土真宗門徒が多いですが、天台宗・真言宗といった密教系や、曹洞宗・臨済宗といった禅宗系の寺院も多い地域です。
そういった事情からか、長崎県にも伝統的な仏式の葬送儀礼が残されています。

出棺時のしきたり

出棺

長崎県の葬儀では、西日本を中心とした地域で行われている葬送儀式が多くみられます。

土葬が行われていた頃のしきたりも、一部残されているようです。

天冠(てんかん)をつける

平戸市周辺地域では、出棺の際に白い三角巾「天冠(てんかん)」を額に付けるしきたりがあります。
死装束にも含まれる「天冠」は、閻魔大王の前に出る際の正装ともいわれており、死者を象徴する装いです。

遺族が故人と同じ「天冠」を付ける風習には、「あの世との境目まで見送ります。その先は一人で進んでください」という意味があるといわれています。

茶碗割

茶碗

「茶碗割」は、出棺の際に故人が生前使用していた茶碗を割るという習慣で、九州地方を含めた西日本で広く行われています。
あの世へと旅立つ故人に対し、遺族が「あなたの食べ物はありません」という意思表示をするしきたりで、現世への未練を断ち切るための習慣といわれています。

棺回し

「棺回し」も西日本を中心とした地域で広く行われている葬送習慣で、出棺時に柩(ひつぎ:故人を納めた状態の棺)を回す、あるいは参列者が柩の周りを回るといった方法で行われます。

故人の目を回すことで戻る場所を見失わせ、浄土への旅立ちを後押しするための儀式とされているようです。

野辺送り(のべおくり)

土葬が弔いの主流だった時代は、遺族や近隣住民が葬列を組んで棺を埋葬地まで運ぶ「野辺送り(のべおくり)」が、日本全国で行われていました。
99.9%以上の方が火葬される現在では見かけることも少なくなった習俗ですが、長崎県では葬儀場から霊柩車までの短い距離ではあるものの、葬列を組んで「野辺送り」を行うことがあるようです。

三日参り

法話

葬儀翌日に菩提寺を訪れ、これからの仏事の相談をしたり、住職から法話を聞いたりするしきたりを「三日参り」といいます。
初七日の法要も葬儀当日に繰り上げることが多い現在では、省略されることも多い習慣ですが、長崎県では比較的多くの方が行っているようです。

長崎県で多く行われているキリスト教式の葬儀

大浦天主堂
大浦天主堂

かつて日本でのキリスト教布教の中心地となり南蛮貿易で栄えた長崎県は、今もキリスト教徒が多い地域です。
そのため、他県に比べキリスト教式の葬儀も多く行われているようです。

長崎県におけるキリスト教の推移

2005年には7万8千人以上だった長崎県のキリスト教徒の数も、2019年には6万3千人まで減少しています。
しかし長崎県の人口自体も減少を続けているため、県人口に対するキリスト教徒の比率は4%ほどを維持しているようです。

参照:GraphToChart. 「グラフで見る長崎県のキリスト教系信者数は多い?少い?(推移グラフと比較)」. 最終更新:2022-04-17. https://graphtochart.com/japan/nagasaki-no-of-adherents-christianity.php,(参照日時:2022-10-09)

お香典の表書き

キリスト教式の葬儀におけるお香典の表書きは、カトリックとプロテスタントで異なります。
ちなみに長崎県におけるキリスト教徒のほとんどは、カトリックといわれています。

カトリックではミサと呼ばれる儀式を行うため「御ミサ料」を使うこともありますが、プロテスタントでは使用しません。
しかし「お花料」はカトリック・プロテスタントのどちらでも使えますし、一般的な「御霊前」でも問題ありません。

お香典に用いる封筒は、十字架や百合の花が印刷されたものを用います。
*蓮の花が描かれた不祝儀袋は仏式用ですので、キリスト教式の葬儀には相応しくありません。

遺族にかける言葉

聖書

キリスト教における「死」とは「永遠の命の始まり」で、天に召されるのは祝福すべきことと考えられているようです。
「悲しいことではあるものの決して不幸なことではない」と捉えられているため、お悔やみの言葉は述べません。

そのため「安らかな眠りをお祈りいたします」といった表現が無難でしょう。

おわりに

葬儀社様ホームページのコラムとしてこのような記事の掲載をおこなっておくと、喪主様・ご遺族様・ご参列の方々も分かりやすく、興味を持たれる内容かもしれません。

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