葬儀業におけるエンゲージメント向上の教科書 〜社員が”働いて良かった”と思える会社へ〜

「求人を出しても応募が来ない……。せっかく採用できても2ヶ月で辞めてしまう。一体どうすればいいんだろう?」
葬儀業界の経営者様なら、この悩み、痛いほど分かりますよね。
ハローワークへの掲載、給与アップ、福利厚生の充実…あらゆる手を尽くしても、なかなか人材が定着しない現実があります。
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など、採用・定着で頭を抱えている葬儀・葬祭業の責任者が知っておきたいことは山ほどあるはずです。
そこでこの記事では、社員が心から「働いて良かった」と思える会社づくりについてお話ししていきます。
業界の給与データから定着率の実態、そして根本的な解決策まで詳しく解説していきますので、ぜひ参考にしてみてください!
もくじ
葬儀業で採用が難しい理由とは?【人が集まらない背景】
結論からいうと、葬儀業界は極めて採用が困難な業界の代表格と言えるでしょう。
有料求人媒体への出稿、雇用条件の改善、ハローワークでの募集など、どれほど努力されても成果が出ないのは決してあなたの会社だけではありません。
業界全体の構造的な課題が存在しているため、従来の採用手法では限界があるのが現実です。
さらに深刻なのは、運良く採用できたとしても数か月で退職してしまう定着率の低さです。
この背景には、報酬の問題、働く環境の厳しさ、そして経営陣の従業員に対する考え方といった複合的な要因が絡み合っています。
このセクションでは、以下の3つの視点から葬儀業界の採用難易度を詳しく解説していきます。
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報酬・待遇の実態
実は、葬儀業界の給与水準は世間で思われているほど低くはありません。
厚生労働省「令和3年賃金構造基本統計調査」によると、葬儀屋の平均年収は386.1万円(平均年齢42.3歳)です。平均月給は28.1万円で、年間賞与及びその他特別給与額の平均は48.4万円です。
出典:厚生労働省「令和3年賃金構造基本統計調査」
一方で、全業種の平均年収が約460万円であることを考えると、決して高水準とは言えないのが現状です。
しかし、この数字だけでは見えない部分があります。
他業界と比べた年収の差
複数の転職サイトの口コミ投稿を基に算出してみると、葬儀屋の平均年収は、440万円でした。口コミに見られる年収は、280万円〜600万円の範囲に分布しています。
日本人全体の平均年収約460万円と比較すると、葬儀業界は若干下回る水準ですが、大きな差があるわけではありません。
むしろ問題なのは、給与の幅が280万円から600万円と非常に広いことです。
これは企業規模や地域、経験年数によって大きく待遇が異なることを意味しています。
特に地方の中小葬儀社では、280万円台の低い年収に留まるケースも珍しくありません。
上場企業(燦ホールディングス(公益社)・ティアなど)の給与水準
上場企業の葬儀社は業界内でも高い給与水準を維持しています。
OpenWorkが独自に作成した冠婚葬祭業界の平均年収ランキングによると、1位は株式会社公益社で平均年収652万円でした。
2位は株式会社鎌倉新書で平均年収514万円、3位・4位は葬儀業ではない企業がランクインしており、5位は株式会社日本セレモニーで426万円でした。
出典:【2025年06月最新】平均年収ランキング|冠婚葬祭業界で年収が高い企業TOP20 OpenWork
また、転職サイトdodaでは、葬儀業界の大手企業である株式会社ティアの過去5期分における平均年収が545万円と掲載されています。
出典:doda(株式会社 ティア)
OpenWorkのランキング1位の公益社やdoda掲載のティアの情報によると、両社は業界の平均年収を大きく上回る高水準を実現しています。
これらの企業に共通するのは、明確な昇進制度と研修体制、そして透明性の高い給与体系を整備している点です。
一方、OpenWorkのランキング5位の日本セレモニーの平均年収は426万円と、国内平均(約460万円)を下回っており、業界全体の課題を浮き彫りにしています。
葬儀業界の給与構造とキャリア別の収入差
統計データを詳しく分析すると、葬儀業界の給与構造には特徴的な傾向が見られます。
特に「どれだけ経験を積んでいるか」が重視されやすく、勤続年数が長いほど収入が増える傾向にあります。実際、経験豊富な葬祭ディレクターや管理職クラスでは、年収600万円を超えるケースも珍しくありません。
一方で、新人の場合は月給23万円前後からのスタートが一般的で、年収は300万円台前半にとどまる傾向があります。このような給与格差が、求職者にとっては「将来性が見えにくい」と感じられる要因となっている可能性もあります。
なお、夜勤手当や休日出勤手当などの各種手当が充実している企業も多く、基本給以外の収入も重要な収入源となっています。
なぜ定着しないのか?【人が辞めてしまう理由】
葬儀業界の定着率の低さは、業界全体の深刻な課題となっています。
厚生労働省が公表している「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、葬儀屋を含む「生活関連サービス業・娯楽業」の平均勤続年数は10.8年です。
一方、産業を問わない一般労働者全体(男女計)の平均勤続年数は12.4年となっており、葬儀業界は「平均よりも人材の入れ替わりが激しい」業界であると考えられます。
さらに深刻なのは、せっかく採用できても2ヶ月程度で退職してしまうケースが非常に多いことです。
この背景には、業界特有の厳しい労働環境と、経営陣の従業員に対する意識の問題があります。
他業種との比較(定着率・離職率)
一般労働者(正社員、フルタイム中心の常用労働者)の離職率の平均は12.1%です。
これと比較すると、生活関連サービス業、娯楽業の一般労働者の離職率は20.8%と、全国平均を大幅に上回っています。
葬儀業界もこのカテゴリに含まれるため、離職率の高さは業界全体の特徴と言えるでしょう。
一般労働者の定着率87.9%、離職率12.1%という全業種平均と比較すると、生活関連サービス業、娯楽業の一般労働者の定着率は79.2%と8.7ポイント低くなっており、人材の定着が難しい業界であることがわかります。
特に注目すべきは、1位「生活関連サービス業・娯楽業」20.8%、2位「 サービス業(他に分類されないもの)」19.3%、3位「宿泊業・飲食サービス業」18.2%と続いている点です。
参照:厚生労働省「令和5年雇用動向調査結果の概要」
これらの業界に共通するのは、人と人との接客やサービスが中心となる業務であり、精神的・肉体的な負担が大きいことです。
上場企業の定着努力と課題
上場企業の葬儀社においても、従業員の定着率に関する課題は依然として残されています。
一般的に、勤続年数が長いということは定着率が高いことを意味し、必ずしも例外なく当てはまるわけではありませんが、職場環境や働きやすさが整っている“良い会社”である可能性が高いと考えられます。
実際に、マイナビ2027によると、燦ホールディングス(株式会社 公益社)の平均勤続年数は12.4年、株式会社ティアでは7.3年と報告されています。
参照:マイナビ2027(株式会社 公益社)・マイナビ2027(株式会社 ティア)
これらの大手上場企業では、研修制度の整備や福利厚生の充実などを通じて、人材の定着を促進している点が特徴です。
とはいえ、他業種と比較すると依然として離職率が高く、葬儀業界全体に共通する構造的な課題が存在することも否めません。
業界内では、キャリア形成支援や柔軟な働き方の導入を進める企業も現れ始めており、今後の定着率向上に期待が寄せられています。
しかし、業界全体としての抜本的な改善には、より包括的な改革が求められているのが現状です。
葬儀業界が抱える“育成できない”問題とは?
「葬儀屋はやめとけ!ブラックだから」といった声をネット上で目にすることがありますが、こうした意見の背景には、業界全体として定着率の低さがあると考えられます。
2010年以降、過酷な労働環境を抱える葬儀社が増加傾向にあり、長時間労働や低賃金といった職場環境が問題視されるようになりました。
実際に、現役の従事者からも「就職を考えている人は、葬儀社選びを慎重に行うべき」といった声が聞かれるほどです。
特に課題とされているのが、従来の「見て盗め」という徒弟制度的な育成方法です。
標準化された教育システムが確立されていない企業も多く、育成が苦手なままの葬儀社がほとんどという状況が、新人の定着を困難にしています。
また、女性の活用ができていない企業も多く、労働人口の減少が続く中で、多様な人材を育成・活用できる体制づくりが急務となっています。
人が育ち、辞めない会社のつくり方【経営者の雇用戦略】
結論からいうと、葬儀業界の採用・定着問題を根本的に解決するには、経営陣の意識改革が不可欠です。
従来の「人は替えがきく」という考え方から脱却し、従業員一人ひとりを大切にする経営姿勢への転換が求められています。
具体的には、ES(従業員満足度)と従業員エンゲージメントという2つの概念を理解し、実践することが重要になります。
ES(従業員満足度)とは
ES(Employee Satisfaction)とは、職務内容、労働環境や待遇、人間関係、福利厚生など、従業員の仕事や職場に対する満足度を表す指標です。
従業員満足度は、「自分の能力に合った仕事ができている」「成長が実感できる」「職場に嫌な人がいない」といった環境では高くなる傾向があります。
逆に、「頑張っても給料が上がらない」「福利厚生がない」「残業が多すぎる」といった環境では満足度が低くなります。
ES(従業員満足度)の向上により得られる主なメリットは以下の3つです。
まず、生産性の向上です。
従業員満足度が高い企業では、従業員のモチベーションが高く、積極的に業務を行います。
次に、定着率の向上です。
職場環境や待遇に満足している従業員は、転職を考える可能性が低くなります。
最後に、顧客満足度の向上です。
満足度の高い従業員は、より良いサービスを提供しようと能動的に取り組むため、顧客評価も高まります。
従業員エンゲージメントとは
エンゲージメント(engagement)とは、「約束・契約」といった意味を持つ英単語ですが、ビジネスにおいては従業員が自社に対して持つ「信頼」「愛着」「積極的な関与」の度合いを指します。
従業員エンゲージメントとは、従業員が自社の企業理念に共感し、自発的に企業の業績向上のために貢献したいと思う意欲のことです。
従業員エンゲージメントの3つの要素は以下の通りです。
「愛着」は、従業員が会社や仕事に対して感じる思い入れや誇りです。
「情熱」は、仕事に対する熱意や積極的な取り組み姿勢を表します。
「共感」は、会社のビジョンや理念への理解と支持を意味します。
ESと従業員エンゲージメントの違い
ES(従業員満足度)と従業員エンゲージメントの違いは重要なポイントです。
ES(従業員満足度)は企業が提供する労働条件や働きやすさなどに左右される受動的な概念です。
一方、従業員エンゲージメントは従業員が自発的に仕事に取り組み、会社に貢献しようとする能動的な概念です。
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満足度が高いからといって、必ずしもエンゲージメントが高いとは限りません。
逆に、満足度がそれほど高くなくても、工夫次第でエンゲージメントを高めることは可能です。
まとめ 〜人が定着する葬儀社に向けて〜
葬儀業界における採用難易度の高さは、報酬形態、従業員定着率、経営者の意識という3つの要素が複雑に絡み合った構造的な問題です。
報酬面での課題では、業界平均年収386万円は全業種平均460万円を下回り、特に新人は年収300万円台からのスタートとなることが多いのが現実です。
ただし、上場企業では年収650万円を超える企業もあり、企業選びが重要な要素となります。
定着率の問題は深刻で、葬儀業界を含む生活関連サービス業・娯楽業の平均勤続年数10.8年は全業種平均12.4年を大幅に下回っています。
離職率も20.8%と全国平均12.1%を大きく上回り、特に入社2ヶ月程度での早期離職が頻発している状況です。
経営・雇用に関する考え方の転換が最も重要な解決策となります。
ES(従業員満足度)の向上により、職場環境や待遇面での基本的な満足を確保し、さらに従業員エンゲージメントの向上により、従業員の自発的な貢献意欲を醸成することが必要です。
従来の「人は替えがきく」という発想から、「一人ひとりの従業員を大切にし、長期的に活躍してもらう」という経営姿勢への転換が求められています。
これらの課題を解決するには、単なる給与アップや福利厚生の充実だけでなく、従業員が「この会社で働いて良かった」と心から思える職場づくりが不可欠です。
葬儀業界の採用・定着問題は一朝一夕には解決できませんが、経営陣の意識改革と継続的な取り組みにより、必ず改善できる課題なのです。
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