奈良県の葬儀における作法としきたり
奈良県は仏教公伝から国家仏教成立までに深く関わった地であり、重要文化財も多く遺されています。
しかしその一方で、日本初代天皇である神武天皇が即位した橿原(かしはら)神宮も奈良県橿原市にあることから、神道の影響を強く受けている地でもあります。
こういった事情から、奈良県では伝統的な葬儀のしきたりが現在まで受け継がれている地域が少なくありません。
そこで今回は、奈良県における葬儀のしきたりについて詳しく紹介します。
奈良県特有の葬送習慣
近畿地方に属する奈良県ですが、大阪府や京都府などとは異なる葬送習慣が少なくありません。
飛鳥時代までの首都であったことから、平安時代以降の公家文化の影響が少ない可能性もありそうです。
環濠集落(かんごうしゅうらく)と「垣内(かいと)」
奈良県には古墳時代以前から集落が存在したとされており、集落の周りに濠(ほり)が張り巡らされた環濠集落(かんごうしゅうらく)という形式が取られていたようです。
かつては濠の内側の集落を指した「垣内(かいと)」ですが、現在でも近隣住民の集まりを指す言葉として残されています。
地方における「隣組(となりぐみ)」や「隣保班(りんぽはん)」と同様に、近所で不幸があった場合は「垣内」の人々が葬儀を手伝います。
地域によっては、葬儀を「手伝う」というより「取り仕切る」ケースも多いようで、葬儀委員長を「垣内」の代表が務めることもあるようです。
現在では環濠集落の形を留めている地域も減少していますが、かつての濠が灌漑用の水路に姿を変えて残されている地域もあります。
また萱生環濠集落(かようかんごうしゅうらく)のように、古墳の濠を流用しているケースもあり、観光スポットになっているようです。
友引だけでなく卯の日(うのひ)も葬儀を避ける
全国的に「友引」の葬儀を避ける傾向がありますが、奈良県では「卯の日」も避けられています。
良いことも悪いことも重なる「卯日重(うのひがさね)」という俗信があることから、弔事が重なることを嫌ったようです。
お香典は黄白ではなく黒白水引
京都府や大阪府などでは、通夜・葬儀のお香典に黄白水引を用いることも多いですが、奈良県ではほとんどが黒白の不祝儀袋です。
ただし、満中陰法要(四十九日忌)や一周忌からは黄白水引を用いる地域もあるようですので、事前に確認しておいた方が無難でしょう。
屏風(びょうぶ)を逆さに立てる
奈良県では故人を安置する際に、枕元に屏風を上下逆にして立てる「逆さ屛風(さかさびょうぶ)」が行われます。
このように、物事を普段とは異なる方法で行うことを「逆さ事(さかさごと)」と呼びます。
日本では「死」を「穢れ(けがれ)」と捉える神道の影響から、日常から「死」を切り離すために、さまざまな「逆さ事」が行われてきました。
「死装束の袷(あわせ)を通常とは逆の左前にする」「帯を縦結びにする」「納棺時に着物を上下逆に掛ける」などは、すべて「逆さ事」の1種です。
頭陀袋(ぶだぶくろ)には針を刺した握り飯
故人を安置する際に設けられる「枕飾り(枕飾り)」には、茶碗にご飯を山盛りにした「一膳飯」が供えられるのが一般的です。
奈良県の葬儀では、この「一膳飯(いちぜんめし)」を握り飯にして、出棺の際に死装束の「頭陀袋(ぶだぶくろ)」に入れるしきたりがあります。
食べ物を副葬品にする習慣は各地に残されており、「あの世で食べ物に困らないように」という遺族の思いが込められた風習のようです。
葬儀社が運営・管理する霊園
橿原市や桜井市周辺では、霊園の管理を一部の葬儀社が担当しているケースがあり、霊園の利用者に対して強い影響力をもっているようです。
霊園利用者の葬儀も、当該葬儀社を利用するのが暗黙のルールとなっているケースもあるようですので、事前に確認しておくことをお勧めします。
今も土葬文化が残る奈良県
現在の日本は、火葬率が99.9%以上とされる世界有数の火葬大国となっていますが、近代までは土葬が主流でした。
奈良県では、土葬時代の葬送習慣が今も数多く残されています。
一部地域では今でも土葬で弔う
奈良県では、奈良市大保町・奈良市月ヶ瀬・山辺郡山添村・吉野郡十津川村などの山間部で、土葬が行われている地域が一部残されているようです。
奈良県は県土のほとんどが山地
古代の都が置かれた奈良県は平地が多いイメージですが、実は全都道府県の中で可住面積がもっとも狭い県となっています。
県内の平地面積は大阪市や名古屋市と同じくらいで、県土のほとんどが山地で占められている厳しい環境です。
現在の日本で、土葬が行われている地域は非常に少なく、そのほとんどが山間地とされています。
奈良県に土葬文化が残されているのも、こういった事情が関係しているのかもしれません。
埋め墓(うめばか)と詣り墓(まいりばか)の両墓制(りょうぼせい)
奈良県における土葬文化の特徴は、人里離れた場所に設けられた埋葬地「埋め墓(うめばか)」と、集落内に設けられた「詣り墓(まいりばか)」の両墓制(りょうぼせい)が取られている点です。
水質汚染や土壌汚染など公衆衛生への配慮から、埋葬地は人々の生活域とは完全に切り離されています。
「埋め墓」は水質への影響を考慮し、生活域より低地に設けられることも多かったようです。
日常的な供養は集落内の「詣り墓」で行われるため、埋葬地を訪れる必要はありません。
野辺送り(のべおくり)
土葬を行う際には、さまざまな葬具を携えた人々が葬列を組んで埋葬地まで棺を運ぶ「野辺送り(のべおくり)」を行う習わしがあります。
「野辺送り」に使用する葬具や葬列における並びは地域や宗派によって異なりますが、1例を紹介します。
- 松明や提灯などの灯明
- 遺影
- 鉦(かね)
- 幟旗(のぼりはた)
- 死華花(しかばな)
- 香炉
- 導師
- 位牌
- 柩(ひつぎ:納棺後の棺)
- 天蓋(てんがい:笠状の葬具)
故人を埋葬するための墓穴掘りや、現世との境界となる竹製の仮門の設置などの準備は、垣内の人々が担います。
内位牌(うちいはい)と野位牌(のいはい)
奈良県の葬儀では「内位牌(うちいはい)」と「野位牌(のいはい)」の大小二つの白木位牌が用意されます。
「内位牌」は葬儀で祭壇に安置され、その後は満中陰法要(四十九日忌)まで自宅の後飾り祭壇(あとかざりさいだん:四十九日忌まで遺影や位牌を安置する仮祭壇)で祀られます。
一方の「野位牌」は故人が埋葬された場所に安置され、そのまま朽ち果てて土に還すのが一般的です。
奈良県では、土葬ではなく火葬で弔う場合も「野位牌」を用意することも多いですが、火葬の場合は「野位牌」を副葬品にするケースが多いようです。
奈良県に協会本部がある天理教の葬儀
奈良県の天理市に教会本部を置く「天理教」は、江戸時代末期に教祖 中山みきによって興された新宗教の1つです。
天理市には、教会本部だけでなく「天理高校」や「天理大学」など、教団関連施設が多数存在します。
天理教における葬儀の特徴
天理教における「死」とは、親神様・天理王命(おやがみ・てんりおうのみこと)より借りていた身体を返し、出直しを行うためのものと考えられているようです。
形式的には仏式の葬儀よりも神道式の神葬祭に近く、地域や所属団体によって流れも異なるといわれています。
天理教の信者が宗教活動を行う際は、背中に「天理教」、襟に所属団体名が記された黒い「ハッピ」を平服の上から着用するのが通例となっているようです。
天理教の葬儀マナー
天理教の死生観は当然ながら仏教とは異なるため、作法にも仏式の葬儀とは違いがみられます。
ここでは天理教における葬儀に参列する際の一般的なマナーを紹介します。
お香典の表書き
お香典の表書きは、神葬祭と同様に「御玉串料」や「御供」「御榊料」が通例となっているようですが、一般的な「御霊前(ごれいぜん)」でも問題ないようです。
ただし蓮の花が印刷または浮き彫りにされている不祝儀袋は仏式用ですので、天理教の葬送儀式では使えません。
「冥福」や「成仏」は使わない
前述したように天理教の死生観は仏教とは異なりますので、仏式の葬儀で定番の「冥福」や「成仏」といったお悔やみの言葉は相応しくありません。
神葬祭と同様に「哀悼の意を表します」「安らかな眠りをお祈り申し上げます」などの言葉であれば問題ないでしょう。
通夜も喪服着用が基本
天理教での葬送儀式では、通夜に行われる「遷霊祭(せんれいさい:みたまうつしの儀)」に重きを置いています。
そのため通夜でも喪服着用がマナーとされているようです。
また一般的な神葬祭と同様に数珠を使うことはないため、持参する必要はありません。
二礼四拍手一拝四拍手一礼
天理教の葬送儀式では神葬祭と同様に玉串奉奠(たまぐしほうてん:榊を神前に供える儀式)が行われますが、その後の列拝に特徴があります。
列拝の作法である「二礼四拍手一拝四拍手一礼」の流れは以下の通りです。
- 祭壇に向かい二礼(軽く頭を下げる)
- 柏手(かしわで)を4回うつ
- 一拝(深く頭を下げる)する
- 柏手を4回うつ
- 一礼
通常の神葬祭では、柏手を打つ際に音を出さない「しのび手」が通例となっていますが、天理教では控えめの音ならば出してもよいとされているようです。
■玉串の作法
おわりに
葬儀社様ホームページのコラムとしてこのような記事の掲載をおこなっておくと、喪主様・ご遺族様・ご参列の方々も分かりやすく、興味を持たれる内容かもしれません。
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