島根県の葬儀における作法としきたり
中国地方の日本海側に位置する島根県は、県東部の出雲地方・県西部の石見(いわみ)地方・隠岐の島町を中心とした隠岐(おき)地方の3つのエリアに分けられます。
「大黒様」として知られる「大国主命(おおくにぬしのみこと)」を御祭神とする「出雲大社(いずもおおやしろ)」のお膝元であるため、文化習俗にも他の地方とは違いがみられます。
こういった事情から、葬儀におけるしきたりにも、非常に特殊なものが少なくありません。
そこで本記事では、島根県の各地に残る葬送習慣について詳しく紹介します。
もくじ
出雲大社のお膝元ならでは葬送習慣
他県では「神無月(かんなづき)」と呼ばれる10月を、島根県の出雲地方では「神在月(かみありづき)」と呼びます。
これは、10月には全国各地の八百万(やおよろず)の神様が出雲に集まり、神様の会議である「神議(かみはかり)」を行うとされることに由来します。
こういった地域特性から、地元の方々は出雲大社に対する配慮を欠かさないようで、葬送習慣にも影響しているようです。
大安は葬儀を避ける
全国的には「友引」の葬儀を避ける傾向がありますが、島根県の出雲地方では「大安」の日も避ける習慣があります。
これは最も縁起の良い日とされる「大安」を、葬儀を行うことで穢さないようにするための配慮のようです。
神道では「死」を穢れとして捉え、日常生活から切り離すべきものと考えることから、出雲大社のお膝元である出雲地方に根付いた風習と思われます。
「広島にお茶を買いに行く」とは?
島根県の出雲地方では、身内に不幸があったことを「広島にお茶(または綿)を買いに行く」と言い換える習慣があります。
神道では「死」を穢れとして忌み嫌うことから、神道の影響を強く受けた地域では「死」という言葉を口にすること自体を避ける傾向があります。
こういった事情から、出雲大社に近い地域で言い換えを行っているようです。
ここでいう「広島」とは、広島県の弥山(みせん)を指しているといわれています。
弥山は厳島神社がある宮島の中央に位置する山で、出雲地方では亡くなった方の魂が集まる霊山と考えられてきたようです。
門に竹を立てかけて忌中のしるしとする
最近は見かけることも少なくなりましたが、かつては不幸があった家の玄関に「忌中」と記した半紙を貼るのが一般的でした。
しかし島根県の出雲地方では、不幸があった家の門に一対の竹を立てかけて、忌中のしるしとする習慣があります。
竹を使う葬送習慣は、あの世とこの世の境目として設置する「仮門(かりもん)」など、各地に存在します。
しかし出雲地方では、門松と同様に穢れを祓うためのしきたりといわれており、神道の影響が強い地域らしい風習です。
島根県の葬儀における独特なしきたり
全国には地域独特の葬儀にまつわる作法やしきたりが存在しますが、島根県にも他の地域ではみられないような風習が残されています。
ここでは島根県独特の葬送習慣を紹介します。
葬儀で振る舞われるお赤飯
島根県の主に東部では、葬儀後に行われる会食「精進落とし(しょうじんおとし)」の席で「お赤飯」を食べる習慣があります。
地域によっては、通常のお赤飯より色を薄くして作ることもあるようです。
お祝いのイメージが強い「お赤飯」ですが、意外なことに葬儀の席で振る舞われるケースが少なくありません。
特に長寿を全うされた方の葬儀では、故人の長生きを祝う意味で振る舞われるケースが多くみられます。
しかし島根県の場合は事情が異なり、出雲大社を死の穢れや魔から守るための風習として行われているようです。
日本では古来より、赤は魔を祓う力をもつ色として捉えられ、弥生時代の巫女は赤土や丹砂を化粧に用いていたとされています。
ちなみに、神社の鳥居も朱色のイメージが強いですが、もともとは白木で作られることが多かったようで、出雲大社や伊勢神宮の鳥居は現在でも白木です。
伽(とぎ:お通夜のこと)の時間が決まっていない
島根県では通夜を「伽(とぎ)」または「夜伽(よとぎ)」と呼ぶ習慣があります。
「伽」とは「夜通し付き添う」という意味を持ち、通夜本来の意味に相応しい言葉といえるでしょう。
近年では2~3時間ほどで切り上げる「半通夜」が主流となっていますが、島根県の「伽」には終了時間が設定されていません。
各々の弔問客が都合の良い時間に喪家を訪れるため、文字通り「伽」が一晩中続くこともあります。
しかし最近では葬儀社の斎場を利用するケースも多く、一晩中の「伽」も減少傾向にあるようです。
会葬返礼品があんパン
中国地方では「法事パン」と呼ばれる習慣がありますが、この「法事パン」の元祖は島根県東部といわれています。
「法事パン」とは、葬儀や法事の会葬返礼品としてパンを配る習慣で、かつての葬式饅頭に代わるものです。
山陰地方(鳥取県・島根県)では、もともと葬儀の参列者へのもてなしとして「あんこ餅」を振る舞っていたようですが、「あんこ餅」作りには手間がかかります。
しかし用意しやすく保存も容易なパンが普及したことから、いつしか「法事パン」が「あんこ餅」に取って代わったようです。
かつての「法事パン」は「あんパン」が主流でしたが、時代の流れと共にバリエーションが増え、現在ではクリームパンやジャムパン・メロンパンなどの詰め合わせが配られることもあるようです。
地域によって違いがみられる島根県の葬儀
島根県は、松江市や出雲市を中心とした出雲地方と、浜田市や益田市を中心とした石見地方、隠岐の島町を中心とした隠岐地方で文化的な相違がみられます。
そのため葬儀にまつわるしきたりもそれぞれで異なり、同じ県内であっても違いが少なくありません。
前火葬(まえかそう)と後火葬(あとかそう)
島根県では、火葬のタイミングさえも地域によって異なります。
県東部の出雲地方では、葬儀当日の朝に火葬を済ませるため、午後からの葬儀が主流です。
一方の県西部では通夜→葬儀・告別式→火葬という流れがほとんどで、葬儀前に火葬を行う「前火葬(まえかそう)」の習慣はみられません。
「前火葬」が行われる地域では、遺骨を祭壇に安置して行う「骨葬(こつそう)」となります。
もし顔を拝んでからお別れしたい場合は、事前に火葬のタイミングを確認しておく必要があります。
葬儀当日に納骨
島根県の出雲地方では、葬儀・告別式につづいて式中初七日・納骨まで済ませてしまうケースが多く、葬儀当日は非常に忙しい1日となります。
また納骨の方法も他地域とは異なり、骨壺から取り出した遺骨を納骨室の土の上に直接置くのが通例となっているようです。
葬儀より通夜を重視する地域も
首都圏を中心とした関東地方では、一般弔問客は通夜式に参列するのが一般的ですが、島根県の出雲地方では葬儀・告別式に参列するのが通例となっています。
ところが県西部の浜田市を中心とした地域では、一般弔問客は通夜式に参列するのが一般的で、県内でも習慣が大きく異なります。
現在の通夜式は、かつての「殯(もがり)」に由来する葬送習慣といわれています。
「殯」とは、亡くなった方の遺体を仮小屋に移し、遺族が一定期間付き添って故人を慰めるというしきたりです。
こういった点を考慮すると、通夜は家族や近しい親族のみで故人に付き添い、一般の方は葬儀告別式に参列していただくのが本来の姿かもしれません。
しかし働く方の多くがサラリーマンとなった現在では、通夜式のほうが参列しやすいのも事実です。
弔いのかたちは時代とともに変化するものですので、どちらが正しいといったものではないでしょう。
石見地方では浄土真宗が盛ん
島根県西部の石見地方では熱心な浄土真宗門徒が多く、教本を見ずに暗唱できる方も多いといわれています。
また通夜式に講(こう:同じ信仰を持つ方の集まり)が訪れ、御詠歌を詠唱する地域もあるようです。
*御詠歌…仏様の教えを分かりやすい言葉で五七調の和歌形式にしたもので、独特の節をつけて詠いあげられます。
おわりに
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