葬祭ディレクターとあわせて持ちたい|海洋散骨ディレクター資格の取得方法やメリット・年収を解説
葬儀後の対応のひとつにご遺骨の埋葬がありますが、昨今注目を集めているのが「海洋散骨」です。
2021年には厚生労働省から事業者向け散骨ガイドラインが発表され、一般消費者だけでなく、葬儀関連事業者様にも浸透し、埋葬の形の1つとして認知され始めています。
『葬儀屋さんのホームページにおける海洋散骨サービスのご紹介方法まとめ』記事でも掲載の通り、海洋散骨に関する問い合わせは近年、増加傾向にあります。
そう遠くない未来には、葬儀社様のアフターサービスとして、海洋散骨など新しい埋葬の形を実施することが当たり前となるかもしれません。
葬儀社様におかれましても、お客様の要望に一貫して応えるために、海洋散骨に関する資格の取得が必要になる可能性もあります。
そこで今回は、海洋散骨ディレクターについて、概要や資格取得方法、メリット、年収についてご紹介いたします。
似たような資格として挙げられる「海洋散骨アドバイザー」との違いについてもご紹介いたしますので、ぜひ参考にしてみてください。
もくじ
葬儀社が海洋散骨ディレクターを在籍させるメリット
葬儀社従業員が取得すべき資格として代表的なのは「葬祭ディレクター」でしょう。
しかし現在では、ほとんどの葬儀社様が「葬祭ディレクター」を在籍させているため、他社との差別化を図るうえで、効果は限定的になりつつあります。
また、葬儀の施行以外にさまざまなアフターサービスを用意している葬儀社様も増えていることから、関連資格の所有者を在籍させておけば、優位性を高められるでしょう。
そういった意味で「葬祭ディレクター」があわせ持ちたい資格には以下のようなものがあります。
- 終活ライフケアプランナー
- 終活アドバイザー
- 終活カウンセラー
- 終活コーディネーター
- グリーフケア士
- 終活士
- 遺品整理士
- 海洋散骨ディレクター(今回ご紹介)
- 海洋散骨アドバイザー
海洋散骨ディレクターとは?
「海洋散骨ディレクター」とは、埋葬方法の1つとして海洋散骨を希望するお客様に対して、適切な海洋散骨の知識・サービスを提供できる有資格者です。
具体的には以下の能力があることを証明できます。
- 船舶の種類や用途について把握している
- 船舶の運航や海域について把握している
- 安全・気象など海にまつわる法律やルールの知識を把握している
- 葬祭や葬送文化に対する正しい知識を心得ている
- 海洋散骨に必要な法律や手続きを理解している
- 大切な方を失ったご遺族に対する心構えと接客応対を心得ている
- ご遺族と適切な打ち合わせをしながら散骨のプランを立て、施行できる
上記からわかるように、海洋散骨ディレクターには船舶の安全な運航を守りながら、海洋散骨を安全に実施することをメインに置いていることがわかります。
なお、海洋散骨ディレクター資格試験は「一般社団法人 全国海洋散骨船協会」が実施しています。
海洋散骨に認定資格が設けられた背景
一般社団法人 全国海洋散骨船協会は資格設置の背景について、海洋運行のルールを知らなかったり、守れなかったりしている海洋散骨事業者が、海に関わるその他業者やお客様に迷惑をかけないようにするためとしています。
海洋散骨ディレクターという資格を設けることにより、「葬儀」「ホスピタリティ」に加えた「海」の3つに精通した人材を育成できるとのことです。
海洋散骨に対して、海域沿岸を所管する地方自治体が独自ガイドラインを設定しているものの、国から明確な法的ルールは存在しません。
海洋散骨に明確なルールを定めない限り、営利を優先する海洋散骨事業者は後を絶たないでしょう。
一般社団法人 全国海洋散骨船協会としては、海洋の秩序や埋葬に担する倫理観を持った海洋散骨事業者が増えることを願っての資格設置なのでしょう。
海洋散骨ディレクターと海洋散骨アドバイザーの違い
海洋散骨ディレクターと似た名称の資格に「海洋散骨アドバイザー」があります。
海洋散骨ディレクターと海洋散骨アドバイザーでは軸となる部分が異なるため、海洋散骨アドバイザーの上位資格が海洋散骨ディレクターというわけではありません。
以下に違いをまとめたので、葬儀社社員にどちらの資格を取得してもらうか、あるいは両方取得してもらうかどうかの指標にしてみてください。
海洋散骨ディレクター | 海洋散骨アドバイザー | |
認定協会 | 一般社団法人 全国海洋散骨船協会 | 一般社団法人 日本海洋散骨協会 |
主眼 | ・船舶の安全な航行を考慮した海洋散骨を安全に実施すること | ・海洋散骨の倫理的な部分 ・周辺地域とのトラブルを避ける |
職域 | ・海洋散骨を希望するお客様から海洋散骨を受注 ・実施までのすべてをコーディネート |
・海洋散骨について体系的な知識を持って消費者にアドバイスする ・水先案内人のような存在 |
有効期限・更新 | 3年間(更新後は5年) | ライセンスの更新不要 |
試験難易度 | 高い | 低い |
海洋散骨ディレクターの業務内容
海洋散骨ディレクターの主な業務内容は以下の通りです。
- 海洋散骨に関する業務
- 船長の代理人としての業務
- 遺族とのコミュニケーションおよびフォローアップ
- 年忌法要への同行
詳しくご紹介いたします。
海洋散骨に関する業務
代表的な業務は、以下のような海洋散骨に関する業務です。
- 海洋散骨関連プランの見積り提案
- 供養品販売
- 散骨の手続きとプラン計画、お客様との打ち合わせ
- 企画造成、船舶乗船、セレモニーのサポート、供養スペース運営
- 市場調査
- WEBマーケティング、デザイン業務全般
- 船舶・桟橋等の手配、管理
海洋散骨のサービス提案や備品・供養品の販売のほか、海洋散骨に伴う法的観点や許認可の要不要、それに伴う書類作成も行います。
船長の代理人
海洋散骨ディレクターは船長の代理人としての役目もあります。
海洋散骨ディレクターは、サービスを提供・販売するだけでなく、航行中にお客様の様子を見に行けない船長や船舶スタッフに代わり、代理人として乗船するご遺族への配慮も求められます。
また、船長や船舶スタッフと同様、航海中の危険からお客様を守る安全管理者としての役割も果たします。
遺族とのコミュニケーションおよびフォローアップ
海のルールについてお客様に分かりやすく伝えるプロである海洋散骨ディレクターは、お客様とのコミュニケーションやフォローアップも業務のひとつです。
海洋散骨の認知度は上がりつつあるものの、多くのお客様は海洋散骨について知見がなかったり、海上でのルールやマナーも知らなかったりする場合が考えられます。
海洋散骨ディレクターは、お客様のイメージする海洋散骨を実現するために、できることと、できないことを分かりやすく説明し、お客様に納得してもらわなければなりません。
また、散骨の当日、散骨船に同乗することもあります。
同船しているお客様への海洋散骨のサポートや、悲しみに暮れる参加者のケアも必要です。
年忌法要への同行
海洋散骨が終わったら業務終了、というわけではありません。
海洋散骨ディレクターは、海洋散骨を行った後も、年忌法要や法事で、ご遺族と散骨を行ったポイントを訪れることがあります。
ご遺族の中には、海洋散骨後に周期法要を兼ねた親族の船上懇親会を行うことを恒例行事とする方が一定数います。
そのようなご遺族の要望に応えるために、プランニングだけでなく、当日の年忌法要に同行することも業務に入ってくることを覚えておくとよいでしょう。
海洋散骨ディレクターの資格を取得することで得られるメリット
海洋散骨ディレクターの資格を取得することで、葬儀社様は以下のメリットを得られます。
- 現代の顧客ニーズに対応しやすくなる
- 売上の増加
- 葬儀業界内での競争力の向上
- 海上供養のプロというイメージの向上
詳しくご紹介いたします。
現代の顧客ニーズに対応しやすくなる
最近では、葬儀社様がアフターサービスの一環として、「海洋散骨サービス」を提供するケースも少なくありません。
そのため、葬儀社社員の方が海洋散骨ディレクターを取得することで、現代の顧客ニーズに対応しやすくなり、業務の幅を広げられます。
売上の増加
海洋散骨は、一般的な葬儀サービスよりも高額であることが多く、売上の増加に繋がることがあります。
以下に、一般的な海洋散骨サービスの目安費用をご紹介いたします。
海洋散骨サービス | 価格 |
ご遺骨粉末化作業 | 1万円~3万円 |
委託散骨 | 3万円~8万円 |
個人散骨(チャーター) | 16万円~38万円 |
合同散骨 | 11万円~22万円 |
上記以外にも、ご遺族の中には年忌法要や法事でも散骨した場所を訪れたいと思う方もいるでしょう。
法要・法事で散骨場所を訪れたいご遺族の要望に応えるプランも用意すれば、お客様の継続利用も叶うかもしれません。
葬儀業界内での競争力の向上
海洋散骨ディレクター取得済みの社員がいる葬儀社様は、海洋散骨サービスを提供できることから、競合他社よりも優位な立場に立てるでしょう。
また、海洋散骨ディレクター有資格者を抱える葬儀社様は、海洋散骨のポータルサービスにも登録できるため、無資格である場合よりも販路を拡大しやすいといえます。
海上供養のプロというイメージの向上
葬儀社様は「海上供養のプロが在籍する葬儀社」として、客観的なイメージの向上にも繋がります。
海洋散骨ディレクターを取得することで、海のルールにも精通した専門家がいるというアピールが可能です。
自社ホームページや店舗内に認定有資格者がいることをアピールできれば、客観的な信頼性や信用性を向上できるでしょう。
海洋散骨ディレクターの資格取得方法
海洋散骨ディレクター資格は講習と試験の2部制です。
約2カ月に1回のペースで一般社団法人 全国海洋散骨船協会のホームページにて募集されています。
2023年5月の試験で15回目の実施となることから、比較的新しい試験であることも分かります。
ここからは、受験資格や申し込み方法、試験内容や費用について解説いたします。
受験資格・申し込みについて
海洋散骨ディレクターは個人資格であるため、応募資格はどなたでも受験が可能です。
海洋散骨ディレクターに興味を持った方は、WEBで申し込みましょう。
ただし、海洋散骨ディレクターの試験・講習は定員制です。
早い者勝ちであるため、応募開始の連絡は見逃さないようにしたいですね。
一般社団法人 全国海洋散骨船協会のメールマガジンに登録することで、試験・講習の日程発表連絡を受け取れますので、気になる方は登録することをおすすめします。
講習、試験の内容について
海洋散骨ディレクターの試験出題は、講習時に利用する「海洋散骨ディレクターテキスト」からの出題です。
講習の内容は以下の通りです。
・第1章 海洋散骨と海洋散骨ディレクター
・第2章 海の交通ルール
・第3章 船舶の運航と事業
・第4章 海図や気象の基礎知識
・第5章 葬送文化と散骨
・第6章 海洋散骨事業の心得
・第7章 海洋散骨事業の実際
葬送の知識やお客様対応の知識のほか、海の知識も学べます。
試験方式は筆記試験で、選択問題と記述問題の合計62問。
試験時間は45分です。
問題100点満点中、80点以上獲得すれば合格ですので、難易度は比較的高めといえます。
認定証について
郵送による合否発表を行い、合格者には上記画像のようなIDカードが発行されます。
資格の有効期限は3年間で、以後5年ごとに更新が必要です。
資格取得費用について
海洋散骨ディレクターの受験料は1万8,000円(消費税込み)です。
もし再受験する場合は、1万2,000円の費用が発生します。
海洋散骨ディレクター資格がおすすめな方
海洋散骨ディレクターの資格取得がおすすめできるのは、付加価値として葬儀社様で散骨のアフターサービスを展開したいと考えている場合です。
合格した事業者は「加盟事業者」として協会ホームページに掲載されるため、お客様への信頼性の向上につながります。
そのほか、海や船など海上業務に関わる方や、船x葬儀で新しいチャンスを掴もうと検討中の方にもおすすめです。
海洋散骨ディレクターの年収について【求人時の目安】
海洋散骨ディレクターの年収は幅広いですが、目安としては350~700万円程度です。
会社によっては、昇給や賞与・諸手当がいただける場合もあります。
求人する場合
もし、葬儀社様が海洋散骨ディレクターの有資格者を求人する場合は、船酔いしない方を条件とすることが挙げられます。
そのほか、手当についてや勤務形態についてしっかり明記するようにしましょう。
海洋散骨ディレクターの求人を行う葬儀社様の多くは、シフト制である旨を明確に記載していることがわかります。
また、海洋散骨後の法要・法事としてパーティーを行いたいと考えるご遺族や、海外の海で散骨したいと考える方も一定数いる点にも注目です。
船舶で勤務経験がある方や飲食サービス業、旅行業からの異業種転職もできる旨を記載することで、さまざまな職種の方にアプローチできるでしょう。
海洋散骨ディレクターと組み合わせられる資格
海洋散骨ディレクターの資格は葬祭関連の資格とあわせやすいほか、まず考えられるのは海洋に関する資格があると有利だといえます。
具体例を以下に示しますので、ぜひ参考にしてみてください。
- 「海技士」(国家資格):20トン以上の大型船舶に職員として乗り込む際に必要
- 「小型船舶操縦士(船舶免許、1~2級、特殊)」:重さ20トン未満、全長24メートル未満の船舶を操縦するのに必要な資格
- 「潜水士」(国家資格):潜水作業を職務でおこなう方に必要
- 救命艇手(国家資格):船舶に緊急事態が発生した際、救命艇に乗客や船員を誘導したり、救命艇を操縦したりする船員
- ライフセーバー(認定資格)
そのほか、普通自動車免許やマーケティング関連の認定書、ペットに関する資格(ペット向け海洋散骨を検討している場合)も組み合わせやすいでしょう。
最後に
今回は、海洋散骨と海のプロフェッショナルを証明できる認定資格「海洋散骨ディレクター」について解説いたしました。
海洋散骨ディレクターは、昨今の海洋散骨のニーズに応えながらも、船舶や海のプロであることを伝えやすくなる資格です。
海洋散骨という新しい埋葬方法を行う上で、ご遺族に対して要望が叶うかどうかを、葬送および海洋の観点から専門的に回答できます。
葬儀社様の中でも付加価値をつけるという意味で、新しい埋葬方法をアフターサービスとして取り入れたい場合はおすすめです。
また、船舶関連事業者の新たな事業としても、選択肢の1つといえるでしょう。
本記事が、現在葬儀社などに従事していて、海洋散骨に関する資格取得を検討している方の参考になれば幸いです。