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葬儀業界での需要が高まる遺体衛生保全士(エンバーマー)|葬祭事業におけるエンバーミング資格取得の重要性について解説

遺体衛生保全士

火葬率99.9%を超える日本では、これまで認知度の低かったエンバーミング(遺体を防腐処理し生前に近い姿で長期保存する方法)ですが、近年では新型コロナの影響もあり広く知られるようになりました。
2022年9月19日に執り行われたエリザベス女王の葬儀でも、エンバーミングが施されたのでは?という報道も記憶に新しいところです。

実際に日本でのエンバーミング施行数は増加しており、2021年の実施数は5万9440件で、この10年間で見ると約3倍の増加になっています。
「一般社団法人 日本遺体衛生保全協会」では、この数年で10万件にまで増やすことを目標にしているそうです。

この究極とも言える保存処理を行ううえで必要となる資格「遺体衛生保全士(=エンバーマー)」ですが、葬儀業界でも葬儀施行単価UPにつながるとして期待されています。

この記事では、まず葬儀業界で取得しておいた方が良いと言われる資格を簡単にご覧いただいた後に、「遺体衛生保全士」の概要や取得手順・費用などについて解説します。

「遺体衛生保全士」の資格取得は簡単とは言えませんが、「エンバーミングサービス」の提供を検討されている葬儀社様、および「遺体衛生保全士」を目指す方の参考になれば幸いです。

はじめに~葬儀業界でのエンバーミング資格取得とその意義

葬儀業界資格

 

葬祭関連の資格は2000年代前半から徐々に増加しており、資格試験の主催団体についても他業種からの新規参入が増えているようです。
資格取得には時間と費用が必要となりますので、自社にとって有益な資格を見極める必要がありそうです。

葬儀業界で信頼性の向上につながる知識や資格とは?

葬儀関連資格

本記事のメインテーマである「遺体衛生保全士」資格以外にも、葬儀業務に従事するうえで顧客からの信頼性を向上させる資格は多数存在します。

例えば、葬祭業界で取得を推奨されている「葬祭ディレクター」資格には1級・2級があり、葬儀実務経験2年で2級の受験資格が得られます。
業界内での信頼性向上を図るのであれば、実務経験5年目で受験資格を得られる1級の取得を目指しましょう。

「葬祭ディレクター」1級を取得すると葬儀全般に精通したプロとして認められ、社葬など大規模な葬祭サービスまで担当できるようになるため、葬儀業界でのキャリア形成に有利な資格といえます。

気になる難易度ですが、1級、2級共に70%以上の得点が必要で、合格率は60~70%で推移しています。
数字上は比較的取得しやすそうに見えますが、業界内で2年あるいは5年も働いてきた方の3~4割近くが不合格になる試験ですので、資格取得は簡単ではありません。

有資格者の存在が葬儀社の将来性に与える影響

葬祭ディレクター

企業に対して倫理観やコンプライアンスに基づく経営が求められる時代において、有資格者の存在は自社の魅力をアピールする方法の一つです。

2020年現在の「葬祭ディレクター」の資格取得者は37,085人(1級、2級合算)となっていますが、これは葬儀業務に従事する方全体のうち44%ほどにあたるとされています。
この数値は「葬祭ディレクター」の試験内容が大幅に変わるなどしない限り、今後もあまり変化はないと考えられます。
であれば、すでに「葬祭ディレクター」を配置されている葬儀社様が、さらに他の資格取得者を確保するメリットは少なくないでしょう。

葬儀業務に従事するうえで必ずしも各種資格が必要という訳ではありませんが、資格取得に向けた学習を行うことで業務に関する知識が深まりますし、担当できる業務の幅も広がります。
特に「遺体衛生保全士」の資格保有者は専門性が高く人手も不足していることから、大変な仕事ではあるものの、適性がある人にとっては取得して損のない資格といえるでしょう。

遺体衛生保全士(エンバーマー)の概要

遺体衛生保全士業務

 

「遺体衛生保全士」とは「一般社団法人 日本遺体衛生安全保全協会(以下IFSA)」の認定校で遺体の腐敗防止の技術を身に着け、試験に合格した資格取得者のことで、「エンバーマー」とも呼ばれます。
腐敗防止に加えて、遺体の損傷や、病気によるやつれを修復し、生前の姿に近づけることも「遺体衛生保全士」の大切な役割です。

エンバーミング処理を実施することで、故人との最後の時間を長く過ごせるようになるため、故人の意思や遺族の想いを込めた葬儀の準備が出来ます。
場合によってはご遺族と接する機会もあるので、悲しみに寄り添える心遣いと、プレッシャーの中でも的確な作業が出来る冷静さが求められる仕事です。

エンバーミングの施術費は約15万円~とされていますが、遺体の状態によって費用は大きく異なりますので、事前の確認が必要です。

新型コロナ感染症・災害時の遺体対応で注目のエンバーミング

遺体衛生保全士NHK

 

画像引用元:NHK NEWS おはよう日本「コロナ禍で注目される“エンバーミング」

エンバーミングにおいて特筆すべきは、感染症対策が徹底されている点です。
臓器内の内容物といった腐敗に関係するものを取り除き、換気、排水処理が万全の専門施設で施術されるため、感染の危険性が大幅に減少します。
新型コロナ感染症で亡くなった方でも、エンバーミング処理を施すことで遺族に戻すことが認められるという点で注目されました。

エンバーミングによる保存期間は、通常10日間~2週間程度(IFSAでは最長50日までと規定)とされており、長期間腐敗を防止するため匂いも少なく、ドライアイス不要で触れても安全です。

火葬場の混雑状況にも左右されることもありませんし、大災害時の長期にわたる遺体保存も可能となることから、自衛隊でも「遺体衛生保全士」を募集しています。
エンバーミング処置を施せば、海外を含め遠方からのご遺体搬送にも対応可能です。

遺体衛生保全士(エンバーマー)の具体的な業務内容

エンバーミング作業台

 

引用元:日本ヒューマンセレモニー専門学校 公式ホームページ

「遺体衛生保全士」の主な担当業務は、遺体の防腐処置と、着付け・化粧の2つです。

防腐処置では、遺体の一部を切開して体内中の血液を抜き、防腐剤に入れ替えていきます。胸腔や腹腔の体液や残存物も取り除いたうえで防腐剤を注入しますが、処置中も腐敗は進行するため素早い対応が求められます。

エンバーミング処置を行うにあたっては、ウイルスや病原菌を適切に処理できる専用の施設で実施が必要です。
そのため、エンバーミング施設を所有していない葬儀社様が「エンバーミングサービス」を提供する場合は、近隣のエンバーミングセンターでの施術を依頼することになります。

適切な処置を施した遺体の全身を清拭・洗浄した後、希望された衣服や死装束の着付けや化粧を行うのが、エンバーミングの一般的な流れです。
エンバーミングのプロセスを経ることで、遺族には故人の死を受け止める時間が確保されるため、思い出深い葬儀の実現に寄与するものと期待されているようです。

遺体衛生保全士(エンバーマー)の資格取得手順

現在のところ、日本国内で「遺体衛生保全士」資格を取得できる専門学校は国内では1校のみ(日本ヒューマンセレモニー専門学校エンバーミング科)です。
この専門学校で2年間、葬儀についての知識と人体解剖学などを学んだ後、エンバーマー試験に合格できれば「遺体衛生保全士」資格が取得できます。

海外の葬儀専門学校に留学する方法もありますが、高額な費用と相応の英語力が要求されますので、さらに資格取得へのハードルは高くなります。

 

日本ヒューマンセレモニー専門学校(エンバーミング学科)の概要

日本ヒューマンセレモニー専門学校

 

引用元:日本ヒューマンセレモニー専門学校 公式ホームページ

「遺体衛生保全士」資格を取得できる唯一の専門学校「日本ヒューマンセレモニー専門学校」は神奈川県平塚市にあります。
フューネラル科(25名)とエンバーミング科(25名)の2学科を擁する2年制の学校です。

「葬祭ディレクター協会」が認定する葬祭教育機関のため、フューネラル科の学生は2年生の段階で「葬祭ディレクター2級」の受験資格が与えられます。
「日本ヒューマンセレモニー専門学校」ホームページによると、2級試験の合格率は100%とのことです。

エンバーミング学科のカリキュラム

エンバーミングに必要な解剖学や修復学、微生物学などの専門性の高い授業が並んでいますが、コミュニケーション英会話が含まれているのがユニークな点です。
欧米から入って来てまだそれほど年月が経っていない分野なので、外国人エンバーマーとのやり取りや、お客様が外国人というケースが少なくないのかもしれません。

学生は全国から集まっており、4割が県外からの学生とのことで、全国の葬祭業の後継者が集まるネットワークも強みのようです。

エンバーミング学科の学費について

日本ヒューマンセレモニー専門学校」のホームページによると、エンバーミング科の学費は1年目で合計115.5万円、2年目に100.5万円となっています。
さらに別途費用として2年間で42万円が必要ですので、「遺体衛生保全士」試験の受験資格を得るための合計費用は概算で258万円になります。

個人で負担するには大きな費用と時間ですので、従業員の資格取得に向けて学費を負担する葬儀社様も多いようです。
IFSA認定のエンバーマー試験は 年1回(3月の予定)で、合格率は約50~60%とされており、決して簡単な試験ではありません。

遺体衛生保全士(エンバーマー)の待遇や将来性

遺体衛生保全士待遇

「遺体衛生保全士(エンバーマー)」資格取得者は、全国のエンバーミングセンターやエンバーミングの施設を持った葬儀社に勤務するのが一般的です。
エンバーミングセンターで勤務するケースでは、依頼を受けた葬儀社から遺体を専用施設に搬送し、施術完了後に指定場所に戻すのが一般的な流れになります。

勤務時間については9時~18時に設定している企業が多く、休日は月間8日~9日程度であることが多いようです。
また収入については、月30万円程度の基本給にエンバーミング施術分の報奨金が上乗せされるのが一般的といわれています。

遺体衛生保全士歴史

 

引用元:一般社団法人 日本遺体衛生保全協会「医療従事者の立場から」

2040年にピークを迎えるとされる多死社会に向けて「遺体衛生保全士」資格取得者の需要は高まっており、アフターコロナに再来するであろうグローバル化で、海外への遺体移動のニーズも見込まれます。
しかし、日本で認定された「エンバーマー」は180人前後(2020年)とされており、需要に追い付いていないのが実情です。

以上の理由から、「遺体衛生保全士」の資格保有者は、葬儀業界においてこれから必要とされる人材と言えるのではないでしょうか。

まとめ

今回は「遺体衛生保全士」資格の取得方法や将来性などについて解説しました。
「遺体衛生保全士」資格取得までの道のりは容易ではないため、社内に有資格者を擁している葬儀社様は決して多くありません。
そういった意味では、利用者様へのアピールポイントとなる、希少性の高い資格といえそうです。

新型コロナ感染症による死亡者へのエンバーミング対応の報道など、今後も何かをきっかけに認知度が加速度的に高まる可能性もあります。
とはいえ「遺体衛生保全士」の育成や、専門施設の開設には多大な時間と費用が必要となりますので、葬儀社様の負担は軽くありません。

「エンバーミングサービス」の提供にあたって、内製化するのか外注で対応するのかについては、高いレベルでの経営判断が求められます。

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