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埼玉県の葬儀における作法としきたり

埼玉

東京都と隣接する埼玉県は都会的なイメージですが、秩父市を中心とした秩父地域や、熊谷市・寄居町など7つの市町で構成される北部地域には、豊かな自然が残されています。
さいたま市を中心とした東部・中部・西部エリアと、群馬・栃木・長野県側の秩父・北部エリアでは生活環境も異なるため、文化習俗にもさまざまな違いがあるようです。

そこで今回は、地域によって異なる埼玉県の葬儀における風習について、詳しく紹介いたします。

地域ごとに異なる埼玉県の葬儀事情

埼玉県は、周囲を栃木群馬茨城・千葉・東京・山梨長野の1都6県に囲まれた内陸県で、文化習俗にも隣接地域の影響がみられます。
そのため同じ埼玉県に属していても、地域によって葬送習慣にさまざまな相違があるようです。

寄居町の火葬は遅れがち

火葬

埼玉県北部に位置する寄居町には火葬施設がなく、広域斎場にも属していないため、近隣自治体の火葬施設を利用しています。
こういった事情から、どうしても火葬の優先順位が低くなるため、午後からの火葬になるケースが多いようです。

その結果、葬儀後に行われる本膳(ほんぜん:他地域の精進落としにあたる会食)を済ませた頃には、日が暮れているといったこともあるようです。

葬儀の終了時間は夕方以降になることも

日本全体では総人口の減少が始まっていますが、埼玉県では緩やかに増加(2020年現在)を続けています。
しかし人口が多い地域では火葬場の新設は困難なため、都市部を中心に火葬施設が不足気味となっているようです。

埼玉県人口増加率

出典:令和2年国勢調査 人口等基本集計結果~埼玉県の概要~

そのため火葬のタイミングが午後からになるケースも多く、全体的に葬儀の終了時間が遅くなる傾向にあります。
火葬中に精進落としを済ます「火中本膳(かちゅうほんぜん)」で、葬儀終了時間を早めることもあるようですが、この方法はあまり受け入れられていないようです。

さらに寄居町など一部地域では、葬儀終了後に「念仏講(ねんぶつこう)」による「御詠歌(ごえいか:仏様の教えを分かりやすく和歌にしたもの)が行われてから会食になるケースもあり、ますます葬儀終了時間が遅くなります。

かんむり・とも白髪

死装束

埼玉県の西部・北部地域や秩父地域の葬儀では、男性は「かんむり」女性は「とも白髪」を身に着けて参列する習慣があります。
地域によって細かな作法の違いはあるようですが、基本的なしきたりの内容はかわりません。

「かんむり」とは死装束の一部で、故人の額に着ける三角形の布「天冠(てんかん)」を指し、男性の参列者も故人と同様に額に付けます。

仏教において、亡くなった方は死後7日ごとに生前の行いに対する裁きを受けるとされており、最後の裁きを下すのが閻魔大王(えんまだいおう)といわれています。
全身白装束に「天冠」を付けた姿は、閻魔大王の前に立つ際の正装とされているようです。

一方の「とも白髪」は撚った麻糸を白髪に見立てたもので、女性参列者は頭にのせて葬儀に臨みます。
この他にも、女性参列者が肩に「いろ」と呼ばれる白い布をかける地域もあるようです。

意外に思われるかもしれませんが、同様の風習が残る地域は東北から九州にかけて点在しており、葬儀で参列者が白いものを身に着けるケースは少なくありません。
古来より「白」は清浄な色として捉えられており、悪いものを祓う(はらう)力をもつと信じられてきたことから、こういった風習が生まれたようです。

この風習には「あの世との境目まで見送りますので、その先は一人で進んでください」という、故人の成仏を祈る遺族の気持ちが込められています。

金剛杖(こんごうづえ)

金剛杖

埼玉県の秩父地域・北部地域では、葬儀の際に「金剛杖(こんごうづえ)」が参列者に配られます。
「金剛杖」は修験者(しゅげんじゃ)や四国八十八ヵ所巡りを行う巡礼者(お遍路さん)などが使用する杖で、真言宗の開祖 空海の化身とされているようです。

「金剛杖」という名称は、大日如来(だいにちにょらい)の別名で、 空海の密号でもある「金剛遍照(こんごうへんじょう)」が由来といわれています。

「金剛杖」を持つことは、すなわち弘法大師と共にいるということで、お遍路さんの背中や編笠などに書かれた「同行二人(どうぎょうににん)」と同じ意味があるとのことです。

県北部では「新生活」

埼玉県が隣接する群馬県や栃木県・長野県の一部では、自治体により「新生活運動」が推進されていますが、埼玉県の以下自治体も同様の活動を行っています。

 

「新生活運動」とは、戦後の時代に冠婚葬祭行事の費用負担を減らし、市民生活の改善を図る目的で全国的に広がった運動です。

日本経済が高度成長期を迎えたことで一旦は下火になりましたが、近年では「新生活運動」を見直す動きもあり、活動を再開する自治体も増えているようです。

「新生活運動」に賛同する方の葬儀では、以下のような申し合わせがなされています。

  • 香典は1,000円~3,000円
  • 香典返しはしない
  • 葬儀に伴う酒食の提供はなし
  • 個人での供花・供物の自粛

 

葬儀式場には「一般」と「新生活」の2つの受付が設けられ、「新生活運動」に賛同される方は「新生活」の受付に進みます。
その際に受付係が困らないよう、不祝儀袋の表書き(御霊前・御仏前)に加えて「新生活運動の趣旨に添い香典返しを辞退致します」と記載するのが通例となっています。

また、同様の主旨を記した手紙を不祝儀袋に入れる方式をとっている自治体もあり、自治体ホームページにダウンロードリンクを設置しているケースも少なくありません。

入間市 新生活運動シール(印刷用)

伊那町 同封用紙(施主用)

伊那町 同封用紙(参列者用)

秩父地方に残る独特な葬儀のしきたり

市域の87%を森林が占める秩父市を中心とした秩父地域は、県内の他地域とは生活環境が大きく異なることから、地域独自の葬送習慣が受け継がれています。
また秩父市の下久那(しもくな)地区では、仏式の葬儀を真似た「ジャランポン祭」が行われるなど、宗教観も独特のようです。

■大騒ぎで厄払い「お葬式」祭り…埼玉・秩父市

 

友引を気にしない

全国的には「友引」の通夜・葬儀を避ける傾向がありますが、秩父地域では「友引」でも通夜・葬儀が行われ、火葬場も通常通り開かれています。

「友引」は文字の印象から「故人の霊が友達を連れて行く」ことを連想させるとして、通夜・葬儀を避ける風潮がありますが、実は仏教とは全く関係のない俗信です。

そもそも「友引」は日の吉兆を占う六曜に由来するもので、本来は「共引」と書かれていました。
また「共引」の意味も「勝負がつかない引き分け」というもので、縁起の悪い日でもありません。

仏教宗派の中でも、浄土真宗では根拠のない俗信・迷信からの脱却が推奨されていることから、浄土真宗門徒の多い北陸地方でも「友引」を気にしない地域が少なくありません。
自然と共に生きてきた秩父地方の人々には、迷信よりも現実的で合理的な考え方が必要だったのかもしれません。

骨葬(こつそう)

骨葬

埼玉県の都市部では、火葬施設の不足から葬儀の終了時間が遅くなる傾向がありますが、秩父地域の葬儀終了時間は早めです。

秩父地域では、通夜の翌朝に火葬してから葬儀を営む「骨葬(こつそう)」が通例となっています。
基本的には葬儀当日の午前中に火葬を済ませ、午後の早い時間帯に葬儀開始という流れとなっているようです。

「骨葬」の場合、葬儀から参列した方は故人と顔を合わせてのお別れはできません。
もし顔を拝んでからお別れしたい場合は、早めに火葬のタイミングを確認しておく必要があります。

枕飾り(まくらかざり)

枕飾り

故人を安置する際に、枕元に「枕飾り(まくらかざり)」を準備するのが一般的ですが、秩父地域には「枕飾り」の準備にも独自の作法があります。

「枕飾り(まくらかざり)」として供える「枕団子(まくらだんご)」は、上新粉で作るケースが多いですが、秩父地域ではうどん粉が一般的です。
また「枕飯(まくらめし)」を炊く際には使い古した鍋を用い、「枕団子」作りの残り汁を使用するのが作法とされています。

さらに「枕飯」を炊く際に使用した鍋は、葬儀後1週間は使わないという決まり事もあるようです。

納棺時に縄を腰に結ぶ

秩父地方の葬儀では納棺時に縄が配られ、参列者は腰に縄を立て結びにして着ける風習があります。
この習慣は、着物が日常的に着られていた頃の「たすき掛け」の名残(なごり)といわれており、今でも葬儀に着物で参列した女性は、たすき掛けにすることもあるようです。

納棺の際には参列者が口にお酒を含み、遺体に吹きかけるという風習も残されていますが、これは現代のアルコール消毒に近い意味があるといわれています。

「ともに立つ」とは?

精進落とし

秩父地域の葬儀では、受付で「ともに立ちますか?」と尋ねられることがあります。

「ともに立つ」とは「精進落とし(しょうじんおとし)」の会食に参加することを意味しており、参加する場合は「ともに立ちます」と、不参加の場合は「お焼香だけで失礼します」と答えるのが作法です。

受付に「いろ代100円」の貼り紙がされている場合、会食に参加する方は100円を受付に納めます。

香典の金額を受付で確認

秩父地域の葬儀では、受付でお香典を開封して金額を確かめる習慣があります。
他の地域から参列された方は失礼に感じるかもしれませんが、地域の習慣ですので寛容に受け止めましょう。

紅白水引の「お見舞い」

長く病気療養中だった方が亡くなった場合、秩父地域では紅白水引の祝儀袋に「お見舞い」と表書きしたものを、お香典とは別に包む風習が残されています。

葬儀で紅白水引は不相応に感じるかもしれませんが、入院中にお見舞いに行けなかったお詫びとして、快気祝い(かいきいわい:病気が治った方へのお祝い金)の代わりという意味があるようです。
同様の習慣は、東北地方や北関東の一部地域でも行われています。

寺送り(てらおくり)

僧侶

葬儀・告別式に続いて「精進落とし(しょうじんおとし)」の会食に進むのが一般的な流れですが、秩父地域では会食の前に「寺送り(てらおくり)」が行われます。

「寺送り」とは、故人の死を菩提寺のご本尊様とご先祖様に報告するしきたりで、住職が到着するタイミングを見計らって寺院に赴く(おもむく)のが通例となっています。

菩提寺の本堂と位牌堂で追善供養の読経を行い、住職の法話を聞いてから葬儀場に戻り、「精進落とし」を行うのが秩父地域における葬儀の流れです。

お念仏

葬儀・告別式と「精進落とし」の会食を済ませると、近隣住民による「お念仏」が行われます。
「お念仏」では、鉦を叩きながら「十三仏真言」や「南無阿弥陀仏」などの念仏を、7回または13回唱えます。

また「念仏講(ねんぶつこう:同じ信仰を持つ集まり)」により、御詠歌(ごえいか:仏様の教えを分かりやすく五・七調の和歌形式にまとめたもの)が詠唱される地域もあるようです。

■十三仏真言

おわりに

葬儀社様ホームページのコラムとしてこのような記事の掲載をおこなっておくと、喪主様・ご遺族様・ご参列の方々も分かりやすく、興味を持たれる内容かもしれません。

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