葬儀業界におけるリスティング広告の商標権侵害とは?|パターンごとの対応方法を解説
葬儀関連業界における顧客獲得競争が激化しており、他社が自社の屋号や社名・サービス名を勝手に利用した「リスティング広告」を出稿するケースが増えています。
葬儀ポータルサイトや葬儀アフェリエイトサイトの広告が、本来の商標権者である葬儀社様の広告よりも上位に表示されているようなケースでは、集客への悪影響が懸念されます。
こうした動きへの対策が必要と分かっていても、対応方法が分かりにくいため二の足を踏んでいる葬儀社様も多いようです。
そこで今回は、自社の名前や屋号が他社に利用されている「リスティング広告における商標権侵害」について、商標問題からブランド保護の重要性、メリット・デメリットを具体例を交えてご紹介することにいたします。
本記事でリスティング広告と商標権侵害について学び、自社のブランドを守りながら競争力を高めていきましょう。
もくじ
そもそも商標リスティングとは何か?
リスティング広告は「検索連動型広告」とも呼ばれ、ユーザーが検索するキーワードに合わせて、検索結果の最上位に表示させるサービスで、Google広告やYahoo!広告などが代表的です。
広告出稿の際に、ユーザーが検索しそうな語句を想定してキーワードを設定することで、より確度が高く効率的な集客が可能となります。
「商標リスティング」とは、リスティング広告を出稿する際のキーワードに、商標を含めて運用する手法です。
*商標:社名や屋号・商品名・サービス名など固有の名称
商標権と商標権侵害
商標は事業者がブランディングをおこなううえで重要な意味を持つため、多くの企業では商標登録を実施しています。
特許庁に商標登録申請を出願し、審査にクリアすれば、その商標を独占的に使用できる権利「商標権」が与えられます。
商標登録された名称や語句・ロゴなどは商標法によって保護されているため、他社が勝手に商標を使用することは商標権侵害にあたります。
万が一、商標の無断利用が発覚すると、差し止め請求や損害賠償請求されるリスクがありますし、悪質な場合は「10年以下の懲役、または1,000万円以下の罰金」という刑事罰が科せられることもあります。
こういった事情から、リスティング広告の運用についても、他社の登録商標の使用には一定の制限が設けられています。
商標登録されている社名や屋号・サービス名称を、他社がリスティング広告に使用することを不正出稿といいます。
では、こういった不正出稿を放置した場合、どういった不利益が発生するでしょうか?
不正出稿を放置した場合のリスク
他社による不正出稿を放置した場合の主なリスクとしては「ビジネス上の機会損失」「企業イメージの低下」「広告宣伝費の増加」の3つがあげられます。
どれも深刻な問題ですが、最も大きな影響を被るのは「ビジネス上の機会損失」でしょう。
同業他社が自社の登録商標を使用してリスティング広告を出稿した場合、本来は自社が得られるはずだった顧客を、不正出稿をおこなった他社のサイトに奪われてしまう可能性があります。
このような不正出稿が数多く発生すれば、自社の収益に大きな損害を与える結果になりかねません。
こうしたリスクを回避するため、Google広告やYahoo!広告では、不正出稿を停止するための方法が用意されています。
しかしそのためには、自社が当該商標の商標権者であることを証明する必要があります。
自社の利益を守るためには、社名や屋号・サービス名称の商標登録が重要であることが理解いただけるかと思います。
葬儀業界における商標登録の実例
葬儀業界でも、多くの冠婚葬祭互助会様や葬儀社様が自社の社名や屋号・葬儀会館名などを商標登録しています。
さらにオリジナルサービスの名称を商標登録している葬儀社様も珍しくありません。
なお葬儀社の商標登録については、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひ一読ください。
『葬儀社は商標登録するべき?商標登録済み代表的な葬儀関連会社も紹介』
ニチリョク
東京証券取引所スタンダードに上場する株式会社ニチリョク様は、自社のロゴやサービスのロゴなどのほか、数多くのサービス名を商標登録しており、生前に葬儀費用を預けられる『心託®』(登録番号:第5684985号)もその一つです。
メモリアルアートの大野屋
メモリアルアートの大野屋様では、墓石や手元供養関連の商標を数多く登録されていますが、葬儀関連では『フューネラルリビング®』『リビング葬®』が登録されていました。
- フューネラルリビング(登録番号:第4872837号)
- リビング葬(登録番号:第4924683号)
近年では小規模な「家族葬」の増加にともない、ご遺族様がゆっくりと時間を過ごせるような居室を併設した葬祭ホールが増加傾向にあります。
しかし「リビング葬」という名称は商標登録されているため、競合の他葬儀社は使用できません。
葬儀業界におけるリスティング広告の商標トラブル
葬儀業界におけるリスティング広告では、競合葬儀社が他の葬儀社が所有する商標権を侵害するような事例は、実のところあまり多くはありません。
これは、同業他社の商標権を侵害するリスクに対し、得られるメリットが少ない点があげられます。
しかし葬儀ポータルサイトや葬儀アフィリエイトサイトなどが出稿しているリスティング広告では、商標権侵害に該当しかねないようなケースが見受けられます。
これは一般的な葬儀社と、葬儀ポータルサイト・葬儀アフィリエイトサイトとの収益構造の違いによるものです。
葬儀ポータルサイトは、葬儀を希望する消費者を集客し、葬儀社への送客することで得られる紹介手数料を収益の軸としています。
また葬儀アフィリエイトサイトは、葬儀について検索するユーザーを集め、葬儀ポータルサイトに誘導することで報酬を得ています。
両者とも自社サイトに集客できなければビジネスが成り立たないため、商標権侵害のリスクを冒してでも、地域で高い知名度のある葬儀社様などの登録商標を、リスティング広告に使用していると考えられます。
こういったサイトの動向を放置した場合、検索ページのリスティング広告枠の上位を不正出稿が占めてしまう可能性があります。
被害を防ぐためには不正出稿を停止する必要がありますので、Google広告やYahoo!広告などの広告媒体に対し、商標使用の制限を申請すべきでしょう。
しかし広告媒体に商標使用の制限を申請しても、不正出稿のすべてを停止できるわけではありません。
これはリスティング広告における商標使用について、広告媒体が制限をかけられるパターンと、かけられないパターンがあるためです。
リスティング広告における商標使用の制限
自社が所有権を持つ商標を、リスティング広告に使用するのであれば、集客手法としてまったく問題ありません。
しかしリスティング広告を出稿する際に、他社が商標権を持つ語句や名称などを使用した場合は、大きなトラブルに発展する可能性があります。
こうしたトラブルの発生を回避するため、Google広告やYahoo!広告では、リスティング広告における商標使用に一定の制限を設けています。
ただし、リスティング広告における商標使用のすべてを禁止しているわけではないため注意が必要です。
ここからは、リスティング広告における商標使用で、制限が適用されるケースと適用されないケースに分けて、それぞれ詳しく解説します。
商標使用が制限されないケース
前述したように、リスティング広告を出稿する際に、商標を使用することを商標リスティングといいます。
しかしリスティング広告を出稿する際のキーワードとして、他社の商標を利用すること自体は、Google広告・Yahoo!広告ともに制限していません。
これは、リスティング広告出稿時に、他社の登録商標を検索キーワードとして設定するだけでは、商標権の侵害には当たらないと判断されていることが理由のようです。
Googleのポリシーによれば、商標登録された屋号や会館名をキーワードとして使用したリスティング広告は、一般的に問題ないとされています。
次に該当する場合、商標の使用は制限されません。
- 商標をキーワードとして使用する
- 商標を表示 URL のセカンドレベル ドメイン、またはドメインに続くパスに使用する
またYahoo!のガイドラインによれば、Googleと同様、商標登録された屋号や会館名等をキーワードとして使用したリスティング広告の出稿は、制限の対象外とのことです。
キーワードは、本申請による制限の対象外です。
ただし、商標権侵害の可能性が低くても、他社登録商標のキーワード使用は、悪意がなく商標権者の事業を妨害する意図がないことが前提です。
第三者からの誤解を招くような表記をしている場合は、商標権者からの申し立てにより制限されることもあります。
商標使用が制限されるケース
Google広告・Yahoo!広告では、リスティング広告を出稿する際に、他社の商標を検索キーワードとして使用することは制限していませんが、広告文や説明文への使用については制限しています。
たとえば、社名や葬祭サービス名を商標登録している葬儀社様(仮にA社とします)が、自社の商標を使用して『安心の葬儀ならA社にご用命ください』といったリスティング広告を出稿したとします。
しかし葬儀ポータルサイト(仮にB社とします)が『葬儀ポータルサイトB社を利用すれば、A社での葬儀がさらに安価になります』といった内容のリスティング広告を出稿し、しかも本来の商標権者であるA社の広告より上位表示されていたとしたら、たまったものではありません。
こうした事例の発生を回避すべく、Google広告では商標使用について以下のように規定しています。
次に該当する場合、商標の使用が制限されます。
- 直接競合している他社の商標を広告に使用している
- 紛らわしい、虚偽的な、または誤解を与える方法で商標を広告に使用している
またYahoo!広告では、他社商標を広告文に使用した場合、配信停止や新規広告作成が不可になる可能性に言及しています。
検索広告では、商標権者が自社のブランド毀損を防ぐために広告文での商標の使用を制限する申請をおこなった場合、第三者による商標の使用を制限することがあります。
広告文に使用制限に該当する商標を含む広告は、配信停止または新規作成が不可となり掲載されません。引き続き広告掲載を希望する場合は、該当の商標を使用せずに広告を作成してください。出典:Yahoo!広告ヘルプ「広告文への商標の使用制限について」
自社の登録商標が、同業他社などのリスティング広告の広告文・説明文に使用されている場合、広告媒体に対して当該商標の使用制限を申し立てることができます。
申し立てに対し、広告媒体側が不正出稿と判断すれば、広告の配信は停止されます。
商標が広告文に含まれていても制限の対象外となるケース
Google広告では、他社の登録商標を広告文に使用することを制限していますが、一部は例外的に制限の対象外としています。
次に該当する場合、商標の使用は制限されません。
- 商標が使用されている広告のランディング ページが、商標に対応した商品やサービス、構成要素、交換部品、または互換性のある商品やサービスの販売を主目的としている(または明確に販売を促進している)
- 広告のランディング ページでは、商品やサービスの購入方法を明確に示し、商品やサービスに関する商業上の情報(料金、価格など)を表示する必要があります。
- また、広告主が再販業者または情報サイトの運営者であるかどうかを、広告とランディング ページ内で明確にする必要があります。
- 商標が使用されている広告のランディング ページが、商標に関連する商品やサービスの詳細情報、または商標に関する検索結果のインデックスの提供を主目的としている
- 商標が、通常の意味において記述的に広告で使用されている
実際のところ、上記の文章を読んだだけでは内容が理解しにくく、具体的なイメージが湧きにくいという方も多いのではないでしょうか。
上記の文章を簡潔にすると「商標権者に不利益を与えない、もしくは商標権者の事業に有利に働く場合は、制限の対象外とする」といった内容になるかと思います。
一般的な商品の場合
自動車を例にとって説明すると分かりやすいかもしれません。
基本的に、自動車の新車販売については、「正規ディーラー」もしくは「自動車メーカーと正式に契約を締結した販売店」以外では取り扱えません。
しかし中古車の再販については正規ディーラー以外も取り扱えますし、交換部品や互換性のあるカーアクセサリーなども、自動車用品店などで取り扱い可能です。
こういった前提に立つと、中古車販売店やカー用品店がリスティング広告を出稿する場合、自動車メーカー名や車種名などの商標を、広告文や説明文に使用するのは妥当と考えられます。
少なくとも、商標権者である自動車メーカーにとって、不利益につながる可能性は非常に低いといえるでしょう。(新車販売に影響を与えにくい)
上記説明文の「1」は、こういったケースを指すと思われます。
また「2」については、各メーカーの新車情報や自動車展示会情報などを発信する「自動車専門メディア」などを指すと思われますし、「3」についても商標権者の不利益にならない掲載方法と考えられます。
いずれについても、商標権者である自動車メーカーにとって有利に働くことはあっても、不利益になることは考えにくいでしょう。
葬祭サービスの場合
前述したように、葬儀業界における商標リスティングは、葬儀ポータルサイト・葬儀アフィリエイトサイトが多くを占めると考えられます。
商標権者である葬儀社が葬儀ポータルサイトと提携していない場合、当然ながらリスティング広告の広告文における商標使用は制限を受けます。
しかし商標権者である葬儀社Aが、葬儀ポータルサイトB社と提携していた場合、両社の関係は協業関係とも捉えられるため、一見すると上記説明文の「1」に該当しそうに感じます。
こういったケースでは、制限の対象外として扱われてしまうのでしょうか?
実際のところ、そうとも言い切れません。
なぜなら、葬儀社Aと葬儀ポータルサイトBは、同じ「葬祭サービス」という商品を取り扱う点で競合関係という面もあるからです。
これは商標使用の制限条件である「直接競合している他社の商標を広告に使用している」に該当する可能性が高いでしょう。
また商標権者である葬儀社Aの広告よりも、葬儀ポータルサイトBの広告の方が上位表示されるようなケースでは、葬儀社Aが不利益を被る可能性も高くなります。
こうした点を主張すれば、商標権侵害の申し立てが認められる可能性もあります。
競合葬儀社の屋号やサービス名をリスティング広告に利用するメリット・デメリット
競合する葬儀関連事業者様の商標を使ってリスティング広告の出稿を考える際、メリットとデメリットをよく理解する必要があります。
主なメリット
競合する葬儀関連事業者様の商標をしたリスティング広告出稿の主なメリットを、以下で確認しましょう。
- 自社を知らない潜在層に届く可能性がある
- 顕在層のなかでも意欲の高い層に届く
- 目的次第で共存関係も可能
例えば、自社の葬儀サービスがまだ知られていない場合は、競合する葬儀社様の名前をキーワードとして使い、リスティング広告を出稿したとしましょう。
そうすることで、することで、自社について知らない潜在顧客へのアプローチが可能です。
競合する葬儀社名で直接検索する消費者は、すでにサービス利用の検討段階にあるため、潜在顧客から見込み顧客への転換が期待できます。
また目的次第では、競合する葬儀関連事業者様などとの共存関係も構築できるでしょう。
比較サイトやランキングサイトのように、いつもの自社アプローチとは違う角度で自社の集客に貢献してくれる場合もあります。
主なデメリット
競合する葬儀関連事業者様の商標を使ってリスティング広告の出稿する場合における、最大のデメリットは商標権侵害リスクですが、他にも以下のようなデメリットが挙げられます。
- 自社に興味のない消費者ユーザーからの訪問が増える
- 広告費用がかさむ
- 葬祭事業者としての双方のイメージが低下する
競合する葬儀関連事業者様のサービスには興味があっても、自社葬祭サービスに興味のない消費者がWebサイトを訪問する可能性があります。
特に、リスティング広告ではクリックされたら課金される従量課金制度を採用しています。
興味のない消費者によるクリックが増えることで、広告費が無駄に増大する可能性も考慮しなければなりません。
また、自社イメージの低下も懸念されます。
特定の葬儀社様を調べる消費者に対して、求めていない他葬儀社様の広告が表示されるため混乱しがちです。
仮に他葬儀関連事業者様と紳士協定を結んだとしても、消費者の方は知りません。
そのため、共存関係を持った双方のイメージが損なわれる恐れがあります。
短期的な売上が上がっても、長期的にはデメリットとなる可能性が高いことも考慮しなければなりません。
最後に
本記事では、商標リスティング広告の概要について解説しました。
屋号や会館名、サービス名などといった商標は、葬儀関連事業者様にとって集客に関わるだけでなく、自社ブランドやイメージを守るためにあります。
GoogleやYahoo!にある程度のルールが記載されていたとしても、IT業界内の暗黙の了解や、個人のモラルに委ねられる面もあることを覚えておかなければなりません。
また、商標リスティング広告の出稿は正しい知見を持った代理店を選ばないと、今回ご紹介した商標権侵害などのトラブルに巻き込まれる可能性があります。
リスティング広告における商標登録を理解するのは、商標について把握するところからはじめないといけないため、とても複雑です。
- 商標についてもっと知りたい
- 商標リスティングに関する内容を相談したい
などがございましたら、ぜひお気軽に「葬儀屋.jp」にご相談ください。
葬儀業界に特化し6年以上。葬儀の流れや現場知識から、リスティン広告の提案やホームページ制作など、集客や採用のマーケティング支援をおこなっております。
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本記事が、葬儀関連事業者様のリスティング広告の商標を巡る問題の解決の一助となれば幸いです。