滋賀県の葬儀における作法としきたり
滋賀県には、かつて若狭地方(福井県嶺南地域)から京へ海産物を運ぶ「鯖街道」が通っていたことから、京文化の残る地域も少なくありません。
また宗教的には廃藩置県の過程で若狭地方が滋賀県の一部だったこともあり、浄土真宗の影響を受けた葬送習慣が各地域でみられます。
滋賀県中央には県面積の約60%を占める琵琶湖があり、湖北・湖東・湖南・湖西の4つの地域は気候風土もそれぞれ異なります。
琵琶湖によって各地域が分断されているため、各エリアで葬儀にまつわる風習も異なるようです。
そこで本記事では、滋賀県の葬儀にまつわる習慣について、詳しく紹介します。
もくじ
他県の影響を受けた風習
滋賀県は近畿地方・北陸地方・東海地方と接しているため、葬儀葬送にも各地域からの影響がみられます。
県全域で京都からの文化流入が多くみられる一方、湖東地方の一部では東海地方と共通した習慣が残されているようです。
粗飯料(そはんりょう)
滋賀県を含む近畿地方では、親族以外の一般参列者が「精進落とし(しょうじおとし)に参加する習慣は、ほとんどみられません。
しかし彦根市など一部地域では、葬儀を手伝ってくれた近隣の方々に対して、会葬返礼品とともに「粗飯料(そはんりょう)」を渡します。
「粗飯料」は食事代を表す言葉で、封筒に2,000円ほど入れて渡すのが一般的です。
こういった風習は、もともと京都・奈良で行われていましたが、最近では少なくなっているようです。
伽見舞い(とぎみまい)
湖東エリアの蒲生郡周辺では、通夜に参列する親族などが遺族にお菓子などを差し入れる「伽見舞い(とぎみまい)」という習慣があります。
かつて通夜は遺族が夜を徹して故人に付き添ったため、少しでも淋しさを紛らわせるようにと、思いやりの気持ちで始まった習慣のようです。
同様の習慣は東海地方一帯でみられ、地域によって「お淋し見舞い(おさびしみまい)」や「夜伽見舞い(よとぎみまい)」などと呼ばれています。
たくあんの煮物
滋賀県の湖北地域では葬儀の際に、たくあんを一度塩抜きしたのちに再度味付けして煮る「ぜいたく煮」が出されます。
そのまま食べられるたくあんを、わざわざ塩抜きして調理しなおすことから「ぜいたく煮」と呼ばれているようです。
京都府や福井県では、ほとんど同じ料理が「大名煮(だいみょうに)」と呼ばれています。
ぜいたく煮の作り方は農林水産省HP「古たくあんの煮物」ページに掲載されています。
滋賀県の葬送習慣
滋賀県で寺院数が最も多いのは浄土真宗ですが、信者の数では天台宗や臨済宗・曹洞宗などの禅宗が上回っています。
そのため各宗派の葬送儀礼の影響が、各地に残されています。
帰敬式(ききょうしき)と剃度式(ていどしき)
浄土真宗では、在家信者も生前に仏弟子となるための「帰敬式(ききょうしき)」を受けるのが一般的です。
「帰敬式」では、剃刀(かみそり)を当てる真似をして剃髪(ていはつ:髪を剃ること)の代わりとします。
しかし浄土真宗信者が「帰敬式」を受ける前に亡くなった場合は、葬儀の際に「帰敬式」を行います。
また天台宗の葬儀では、剃度式(ていどしき)・誦経式(じゅきょうしき)・引導式(いんどうしき)・行列式(ぎょうれつしき)・三昧式(ざんまいしき)の5つの式が基本です。
このうち剃度式では、仏弟子となるための準備として、故人の頭を水と香で清めてから剃刀をあてる真似をします。
どちらも仏弟子となるための儀式という意味をもちますが、滋賀県では「おかみそり」と呼ばれて、県全域で広く行われています。
悔やみ請け(くやみうけ)
滋賀県では、葬儀当日の早朝に近隣の方々が喪家を訪れ、お悔やみを述べる「悔やみ請け(くやみうけ)」という風習があります。
しかし現在では葬儀の小規模化などの影響から、行われる地域も徐々に少なくなっているようです。
こうぎ
湖東エリアの郡部などでは、葬儀を手伝ってくれた近隣の方々に対して、葬儀・告別式の翌日に喪家から食事が振る舞われる習慣があります。
近隣住民は会食の際に香典を渡すのが通例となっており、このしきたりは「こうぎ」と呼ばれています。
ただし「こうぎ」は喪家周辺の限られた人だけが行う習慣で、一般参列者は通常通り受付で香典を渡します。
滋賀県の郡部や湖南エリアの甲賀市などでは、今でも「組」と呼ばれる近隣住民の集まりが葬儀を手伝うため、「こうぎ」の習慣も続いているようです。
縁側や窓から出棺
滋賀県では自宅から出棺する際に、玄関以外の縁側などから搬出するしきたりがあり、縁側のない家庭では窓から出すケースもあるようです。
日本では神道の影響から死を穢れ(けがれ)として捉える傾向が強く、できるだけ日常から切り離そうとします。
そのため葬儀では、普段とは違った方法で物事を行う「逆さごと(さかさごと)」を行う地域が少なくありません。
滋賀県で玄関以外からの出棺にこだわるのも「逆さごと」の1種と思われます。
「逆さごと」のしきたりは地域によって異なり「屏風を逆さに立てる」「故人の衣服を裏返して干す」などの風習が、今も全国各地に残されています。
門勤め(かどづとめ・もんづとめ)
湖東エリアの彦根市周辺では、縁側などから出棺する習慣はありませんが、出棺後に玄関で僧侶が読経を行う「門勤め(かどづとめ・もんづとめ)」というしきたりがあります。
故人と家を切り離すための大切な儀式とされているため、現在まで受け継がれているようです。
豪雪地帯では「前火葬」
葬儀の前に火葬することを「前火葬(まえかそう)」と呼びますが、豪雪地帯に含まれる湖北エリアの長浜市周辺の葬儀では「前火葬」が行われます。
「前火葬」は北海道や東北・北陸など雪深い地域でよくみられる習慣で、滋賀県内でも「前火葬」が行われるのは湖北エリアがほとんどです。
天台宗の通夜・葬儀がもつ意味
滋賀県と京都府にまたがる比叡山延暦寺は天台宗の総本山のため、滋賀県も天台宗信者の多い地域の1つです。
ここでは、天台宗の通夜・葬儀の主な内容を紹介します。
身体を清める
仏弟子になるための準備として、まずは身体を清浄にするために、前述した「剃度式」を行います。
本来は実際に髪を剃る儀式ですが、現在では刃を丸めた剃刀をあてるだけなので、故人の身体に傷がつくようなことはありません。
心を清める
仏教では殺生(せっしょう)を罪としていますが、人が生きていくためには多くの命を犠牲にせざるを得ません。
その罪を懺悔(ざんげ:罪を申告すること)する文を唱え、心を清めます。
三帰受戒(さんきじゅかい)
「三帰受戒(さんきじゅかい)」は、仏弟子として基本となる三つの戒め(いましめ)を授かる儀式です。
仏を信じることを誓う「帰依仏(きえぶつ)」、仏の教えを信じることを誓う「帰依法」、仏の教えに従い実践することを誓う「帰依僧(きえそう)」。
この三つの誓いを立てることで、浄土に迎えられるとされています。
戒名を授かる
「三帰受戒」を誓った証として、仏弟子としての「戒名(かいみょう)」を授かります。
引導と下炬(あこ)
仏弟子になるために必要なすべての準備が整ったら、浄土への旅立ちの餞(はなむけ)として僧侶により引導が言い渡されます。
その後、棺の下を松明の火であぶる「下炬(あこ)」が行われます。
「下炬」はお釈迦様の入滅に倣い(ならい)、火葬の象徴として行われますが、もちろん実際に火をつけることはありません。
十念
最後に阿弥陀如来に向けて、故人の霊を迎えに来ていただくために、念仏を10回唱えます。
この念仏は参加者が多いほどよいとされているため、参列者全員で唱えるのが一般的です。
また光明真言が唱えられることもありますが、真言宗と天台宗では読み方が異なります。
天台宗での唱え方は「オンアボキャ ビロシャナ マカボダラ マニ ハンドマ ジンバラ ハラバリタヤ ウン」です。
おわりに
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