葬儀業界における納棺士認定試験とは?|納棺士の業務内容や資格取得メリットについて解説
簡素化が進む現在の葬儀業界において、需要が高まりつつある付帯サービスに「湯灌サービス」と「納棺の儀」があります。
すでに両サービスをオプションとして提供されている葬儀社様も多く、サービスの内製化を検討されているケースも少なくないでしょう。
特に資格制度が設けられていなかった「納棺師」ですが、平成25年に認定資格が設けられました。
現在では「納棺士資格認定試験」に合格することで「納棺士」として認定されます。
資格といっても「国家資格」ではなく「民間資格」ですので、資格を持っていなければ「納棺師」を名乗れなくなるということではありません。
とはいえ、しかるべき認定機関から認定を受けた「納棺士」ですので、以前にくらべ信頼性向上が期待できます。
本記事では、近年徐々に認知されてきている「納棺士認定試験」について解説します。
「納棺師」という仕事に興味のある方、あるいは納棺業務の内製化を検討されている葬儀社様の参考になるかと思いますので、ぜひ最後までご覧ください。
もくじ
葬儀社で働くうえで活用できる知識や資格
本記事のメインテーマである「納棺士」以外にも、葬儀社でのキャリア形成に活用できる専門知識や、信頼性の向上に寄与する資格がいくつか存在します。
さまざまな資格がある中でも、下記にあげた資格は特に需要が高く「納棺士」もその一つです。
- 葬祭ディレクター技能審査
- 遺体衛生保全士
- 仏事コーディネーター
- お墓ディレクター
- 仏教葬祭アドバイザー
- 葬送儀礼マナー検定
- 終活コーディネーター・カウンセラー・アドバイザー
上記資格の中でも、葬儀業界で働くにあたって最初に取得すべき資格は「葬祭ディレクター」でしょう。
葬祭ディレクターのお仕事とは?
葬儀会社で働くにあたって「まずは取りなさい」といわれる資格が「葬祭ディレクター」で、葬祭ディレクター技能審査協会が開催している試験を受験して合格すると認定される「民間」の資格です。
葬祭ディレクターには「1級」と「2級」があり、それぞれで試験を受ける必要があります。
葬祭ディレクターは葬儀全般を取り仕切るため、担当する業務も多岐にわたりますが、中でも最も重要な仕事は、葬儀を滞りなく進行させて無事に終わらせることです。
ご遺族との打ち合わせや、宗教者との調整、手続きのアドバイスなど、葬儀にかかわる全ての業務を責任もって担うのが葬祭ディレクターです。
納棺士の概要
「納棺師」はあまり一般的ではない職業だったため、お葬式のときに「納棺をする人」というよりも「湯灌をする人」という見られ方をしていたこともあり、今はすっかり言われなくなりましたが「湯灌師」と呼ばれていたこともありました。
「湯灌師」という名のとおり、故人となられた方の身体をきれいにして整えながら、用意された着物を着せて、お化粧を施す「湯灌」をおこなうことが主な勤めになります。
現在の納棺師(納棺士)は、湯灌をおこなうことは必然として、故人を棺に納める「納棺」をおこない、通夜・葬儀告別式が執り行われて火葬場へ出棺するまでの間、故人の状態を保つ「後処置」までおこなうのが通例となっているようです。
納棺士は以下のように定義されています。
”亡くなられた方の身体を清め、お着せ替えを行い、きれいに化粧して棺に納めるとともに、火葬が終了するまでの間、ご遺体を最良の状態に保つことを主な職務とします。ご遺体を生前の元気であったであろう頃のお姿に近付け、残された方々との別れの場を鮮やかに演出する「ご遺体処置のプロフェッショナル」です。”
引用元:一般財団法人日本納棺士技能協会
納棺師?納棺士?
一般的には「納棺師」と表記される場面が多いですが、一般財団法人日本納棺士技能協会では「納棺士」と表記しています。
「師」と「士」のどちらが正解であるといった議論はされたことがないですし、漢字表記の一文字が異なるだけで発音は同じなので、そこの差異に疑問を感じる方は多くないでしょう。
もしかすると「どちらでもいいじゃないか」と言われてしまうような話かもしれません。
協会が「士」の方で表記している理由は明かされていませんが、日本語の話としては「師」と「士」の違いは下記のように言われています。
【weblio辞書から引用】
- 師
- 教え導く者
- 人に教えられるほどその物事に精通している玄人
- ある一つのことを職業にしているプロ
- 士
- 官に仕える者
- 特定の技能を習得した者、プロフェッショナル
- 知識や技能をもって事を処理する専門家
- 資格が求められる専門知識を持って国に仕える職業名や資格名に多く使われる
引用元:weblio辞書「師と士の違い」
辞書的に意味としてはどちらでも通じることになります。
協会としては熟考の末におそらく「士」の方がふさわしいと考えて「納棺士」と表記していると推測するところです。
納棺士認定試験の概要
「納棺士認定試験」とは、一般財団法人日本納棺士技能協会(Japan Noukan-shi Organization=JNO)が開催する「納棺士を認定する試験」のことです。
なお一般財団法人日本納棺士技能協会は平成25年に設立された組織になります。
協会が設立される以前は、実のところ納棺師は特別な資格を必要とする職業ではなく、誰でも納棺師として活動できる状況でした。
基本的に葬儀を裏から支える職業だった納棺師が、世間に大きく認知されるようになったきっかけは、映画「おくりびと®」の公開です。
以後、「映画を見て納棺師になりたいと思いました」と門戸をたたく人が増えたといわれています。
そんな状況に「ちゃんと世間から認められる高い技術を持った人材を送り出そう」「納棺の技術が向上発展していける環境をつくろう」という思いから、一般財団法人日本納棺士技能協会が設立されるに至りました。
協会の設立意義は以下のようになっています。
“日本は高齢化社会を迎え、人生のエンディングをいかに豊かなものにするかという問い掛けの重要性が高まってきています。私達「日本納棺士技能協会」は、納棺という技法を通じ、故人を生前の元気であったであろう頃の姿に近付け、残された方々が心安らかに故人を見送ることができるようにするお手伝いをするために、納棺士の技量の向上と認定を行うことを目的に設立されました。”
引用元:一般財団法人日本納棺士技能協会
資格を取得するには
一般財団法人日本納棺士技能協会(Japan Noukan-shi Organization=JNO)が開催する試験を受験し、合格すれば納棺士として認定されます。
なお、試験内容は公表されていません。
資格取得に必要な費用
資格取得に必要な費用は公表されていないので、協会へ問い合わせする必要があります。
また、協会では正会員・準会員・賛助会員の募集をしており、そちらは会費を納めなければなりません。
【一般財団法人日本納棺士技能協会ホームページより引用】
会員種類 | 入会金 | 年会費 |
正会員 | 300,000円 | 100,000円 |
準会員 | 30,000円 | 30,000円 |
賛助会員 | 100,000円 | 100,000円(一口) |
※価格はすべて税別価格です。
資格を取得するメリット
資格がなくても「納棺師」を名乗ることはできますが、協会から認定されて「納棺士」を名乗るということは義務と責任が問われるということでもあります。
資格を所持しているということは、名刺に表記できるなどの対外的に明確な肩書をもっていることになるので、就職や転職に大きく役立つことでしょう。
さらに協会からの支援・サポートも期待できますし、納棺士同志のネットワークも構築されて情報を得やすくなることが期待できます。
3年に一度、認定資格の更新がおこなわれるので、更新までの期間は日々の納棺業務に勤しむほか、常に技術や知識のアップデートを求められることになります。
資格に関連するお仕事(求人)・給与
納棺師(納棺士)は、葬儀会社に所属して業務するパターンと、納棺専門業者に所属して業務するパターンが一般的ですが、ごく少数ですがフリーで活動されている方もいらっしゃいます。
葬儀社に所属する場合、会社専属の納棺師として専門的に業務するパターンと、葬儀全般の業務に携わる中で業務の一部として納棺をおこなうパターンがあるようです。
業務内容は各葬儀社で運用が異なる部分ですので、求人広告に目を通したうえで不明な点については、事前に確認しておくことをおすすめします。
また納棺専門業者に所属する場合は、葬儀社から依頼を受けた外注業者として、現場に赴き納棺を執りおこなうことになるので、業務としては納棺のみを専門的におこないます。
そのほか、病院や施設で亡くなられた方の病院内での処置を依頼されたり、警察署からご遺体を修復する処置を依頼されたりといった、通常おこなわれる納棺業務の他に、別の業務も並行して請け負っている納棺業者があります。
納棺師としての所属形態によって給与も異なりますから、「納棺師の給与は幾らです」と明示することはむずかしいですが、おおよそ年収ベースで300~400万円といわれています。
一般財団法人日本納棺士技能協会が立ち上げられた経緯
協会が設立されるまで葬儀業界でも話題に上ることが少なかった「納棺師」ですが、2013年(平成25年)、突如日本の葬祭シーンに一般財団法人日本納棺士技能協会が現れたことで、納棺士を取り巻く環境が変わってきました。
「一般財団法人日本納棺士技能協会」は、納棺士育成機関の「おくりびと®アカデミー」を運営する、「株式会社おくりびと®アカデミー」の代表者である 木村 光希 氏が設立した組織です。
一般財団法人日本納棺士技能協会
WEB:日本納棺士技能協会-Japan Noukan-shi Organization(JNO)-
おくりびと®アカデミーとは?
「おくりびと®アカデミー」とは納棺士を育成する国内唯一の育成機関であり、終了者にはアカデミー認定の資格が付与されます。
さらに終末期を迎えた方への対応を伝える看護・介護の講座、ならびに死への備えに向けての講座を受けることで「死=人生の終焉」をサポートできる人材の育成も目的としているようです。
なお、「株式会社おくりびと®アカデミー」の代表者である 木村 光希 氏は、葬祭業ならびにコンサルティング業務を行っている「ディパーチャーズ・ジャパン株式会社」の創業者でもあり、納棺士育成のみならず葬祭業を手がけています。
そのほか、「株式会社広済堂ライフウェル」の代表でもあり、広済堂グループの会社である「株式会社 KOSAIDO Innovation Lab」の顧問にも就任された、現在の日本の葬祭事業におけるトップランナーともいえる人物です。
おくりびと®アカデミー
WEB:おくりびとアカデミー | 納棺士になるための学校 (okuribito-academy.com)
ディパーチャーズ・ジャパン株式会社とは?
「ディパーチャーズ・ジャパン株式会社」は、木村 光希 氏が平成27年に創業した葬祭業の会社ですが、現在の代表者は木村氏ではありません。
現時点では、東京・神奈川・千葉・埼玉・静岡・北海道・新潟・愛知で「おくりびと®のお葬式」というブランドにて葬祭事業を展開しています。
現在は専用の葬祭ホールを、東京・2か所、静岡・3か所、北海道・6か所、新潟・1か所、愛知・2か所、全14か所に所有しており、徐々に認知度が向上している葬儀会社です。
ディパーチャーズ・ジャパン株式会社(おくりびと®のお葬式)
WEB:【公式】おくりびと®のお葬式 | こだわりの葬儀 (okuribito-osousiki.com)
株式会社広済堂ライフウェルとは?
「株式会社広済堂ライフウェル」は、令和2年に設立された葬祭業の会社です。こちらの代表取締役に 木村 光希 氏が就かれています。
会社組織としては「株式会社広済堂ホールディングス」のグループ企業で、グループ会社に火葬場運営で知られている「東京博善株式会社」、同じ葬儀会社である「株式会社グランセレモ東京」があります。
株式会社広済堂ライフウェル
WEB:株式会社広済堂ライフウェル (kosaido-lw.co.jp)
株式会社 KOSAIDO Innovation Lab とは?
「株式会社 KOSAIDO Innovation Lab」は「株式会社広済堂ホールディングス」のグループ企業で、グループの収益力向上を図るための頭脳的役割を担う戦略的子会社として設立されたようです。
その事業戦略の中にエンディング関連事業「廣済堂シニア・エンディングプラットフォーム構想」を掲げており、その推進を図るべく令和3年に顧問として木村 光希 氏が就任されました。
株式会社 KOSAIDO Innovation Lab
木村 光希 氏の略歴
一般財団法人日本納棺士技能協会を立ち上げ、納棺士の環境醸成に尽力されている 木村 光希 氏の略歴をご紹介します。
株式会社おくりびと®アカデミー | 2013年(平成25年)06月設立 |
一般財団法人日本納棺士技能協会 | 2013年(平成25年)10月設立 |
ディパーチャーズ・ジャパン株式会社 | 2015年(平成27年)10月創業 |
株式会社広済堂ライフウェル | 2020年(令和2年)002月代表就任 |
株式会社 KOSAIDO Innovation Lab | 2021年(令和3年)004月顧問就任 |
まとめ
今回は「納棺士認定試験」の概要、および「納棺士」の業務内容などを中心に紹介しました。
葬儀業界でも「湯灌サービス」や「納棺の儀」が、グリーフケアの観点からも近年になって注目されつつあります。
また葬儀の簡素化や規模の縮小による葬儀単価の下落が深刻な葬儀社様にとっても、需要の高まりが期待できるサービスといえるでしょう。
「納棺士」は民間資格ですが、所属する会社組織においてもアピールポイントとなりますので、「納棺士」資格を取得することの意義は大いにあるでしょう。
とはいえ、資格取得や会員登録は無料ではないので、葬儀社や納棺業者としてはコストとメリットが釣り合うかどうかなど、経営判断が必要となります。