山梨県の葬儀における作法としきたり
地域コミュニティの交流が盛んな山梨県は、近隣住民による相互扶助組織の活動が継続している地域です。
そのため葬送儀礼の簡素化が進む現在でも葬儀への参列者数が多く、葬儀費用も高めとなっています。
しかし小さな集落が点在する山間地と、甲府盆地を中心とした都市部では生活環境が異なるため、葬送習慣にも細かな違いがあるようです。
そこで本記事では、山梨県に古くから残る葬儀のしきたりや、独自の埋葬方法などについて詳しく紹介します。
もくじ
人々の絆を感じる葬送習慣
山梨県では、近隣住民同士の信頼関係が築かれているからこそ残されている習慣が、いくつか存在します。
その中でも葬儀に関わるものとして代表的なのは「隣組(となりぐみ)」と「無尽(むじん)」でしょう。
隣組(となりぐみ)
山梨県は、近所で不幸があると仕事を休んででも手伝いに駆け付ける「隣組」と呼ばれるシステムが、今でも残されている地域です。
かつては近隣住民がお互いに助け合う「隣組」という組織が、日本各地で見られました。
しかし近年では、核家族化などの影響から地域コミュニティが機能せず、都市部を中心に近隣住民の助け合いも少なくなっています。
無尽(むじん)
山梨県では気の合う仲間同士が、月に1度ほどのペースで集まる「無尽(むじん)」が盛んに行われています。
他の地域の方にとっては耳慣れない「無尽」ですが、もともとは相互扶助のための金融制度といった主旨の集まりでした。
仲間内で定期的にお金を出し合い、集まったお金は参加メンバーが順番に受け取ります。
しかしメンバー内で結婚や葬儀など大きな出費が発生した際には、積み立てられたお金を費用の一部に充当するシステムです。
銀行などの金融機関が整備された現在では、金融制度としてよりも友人同士の飲み会や食事会といった主旨に代わりつつあります。
中には積み立てたお金で年に1回ほど旅行するようなケースもありますが、助け合いの精神は残されているようです。
お香典は現金渡し
お香典は黒白水引の不祝儀袋(ぶしゅうぎふくろ)に入れて渡すのが一般的ですが、山梨県の都留郡(つるぐん)を中心とした郡内地方では、葬儀場の受付で現金のまま渡すケースが多いようです。
記帳カードに氏名や金額を記入して、現金を添えて渡すのが一般的とされており、葬儀場内に両替所(りょうがえじょ)が設置されているケースもあります。
昼花火
山梨県の郊外では、長寿を全うした方が亡くなった際に、運動会などと同様の昼花火をドンと鳴らして、周辺住民に知らせる習慣があります。
これは故人の長生きを地域の皆で祝うためといわれており、近隣住民同士の絆の強さを感じさせる習わしです。
初七日御膳(しょなのかごぜん)
山梨県では初七日の法要後に、親族や葬儀を手伝った近隣住民を招いて食事を振る舞う「初七日御膳(しょなのかごぜん)」という習慣があります。
現在では葬儀当日に初七日の法要を繰り上げて行うケースが多いため、葬儀後の「精進落とし」を「初七日御膳」の代わりとするケースも多いようです。
念仏講(ねんぶつこう)
山梨県の葬儀では「念仏講(ねんぶつこう)」と呼ばれる近隣の高齢女性の集まりが、出棺時に「御詠歌(ごえいか)」を歌って故人を送り出すしきたりがあります。
「御詠歌」は仏様の教えをわかりやすく五・七・五・七・七の和歌形式にしたもので、宗派ごとに内容が異なります。
山梨県の葬儀の特徴
富士山や南アルプスなどの山々に囲まれ、甲府盆地を中心に発展してきた山梨県は、周辺地域からの影響を受けつつも独自の葬送文化を保っています。
また霊峰富士に詣でる富士講の風習「撒き銭(まきせん)」の影響もあり、富士吉田市周辺では長生きされた方の葬儀で長寿銭(ちょうじゅせん)を配るといった習慣も残されているようです。
今も残る土葬の習慣
現在では火葬率99.9%以上の世界随一の火葬大国となった日本ですが、山梨県では30%前後が土葬により葬られているようです。
日本の火葬率が今ほど高くなったのは比較的最近のことで、明治時代までの全国の火葬率はは30%ほどだったとされています。
明治時代には廃仏毀釈の影響で火葬が禁止されたこともありましたが、都市部への人口集中により埋葬(まいそう:遺体を地面に埋めること)地が不足したことから、火葬が推奨されるようになりました。
その後、公衆衛生の観点から昭和23年に「墓地、埋葬等に関する法律」が制定され、自治体から許可を受けた場所以外への埋葬や焼骨の埋蔵(まいぞう:土中に埋めること)・収蔵が禁じられています。
しかし土葬自体が禁じられているわけではなく、自治体の許可がある場所では現在でも土葬が可能です。
山梨市内には神道信者専用の土葬区画があり、甲州市塩山地区にはイスラム教徒専用の土葬墓地が設けられています。
また北杜市と南アルプス市には土葬に対応している霊園があり、希望すれば一般の方でも土葬可能です。
火葬された遺骨をお墓に納骨するのは、四十九日の法要を済ませた忌明け後が一般的ですが、土葬の場合は葬儀当日に墓地に搬送し、あらかじめ用意された区画に棺ごと埋葬されます。
出棺時は仮門(かりもん)をくぐる
日本各地には、出棺後に故人が戻ってこないように「仮門(かりもん)」を通って出棺する風習がありますが、山梨県にも「仮門」の風習が残されています。
竹や茅(かや)・藁(わら)などでアーチ状の「仮門」を作り、出棺後に壊すのが一般的な流れです。
出棺時に通った「仮門」を壊すことで、故人の霊は帰る家を見つけられず戻ってこられないとされています。
この風習には「故人の霊が迷うことなく成仏して欲しい」という遺族の願いが込められているようです。
こういった目的の葬送習慣は他にもあり、出棺時に故人の茶碗を割るしきたりも同様の目的で行われます。
棺回し(ひつぎまわし)
山梨県の大月市周辺では、出棺時に遺族や近親者が棺を担いで3回回す「棺回し(ひつぎまわし)」というしきたりがあります。
前述した「仮門」の風習と同様に、故人が目を回して戻れないようにするための習慣とされています。
また「回る」という行為は、現世の罪を消し去る「滅罪信仰(めつざいしんこう)」につながるという説もあるようです。
お遍路さんの聖地巡礼と同様の意味を持つとされ、3回回すのは「過去・現在・未来」を表しているともいわれていますが、正確な由来は定かではありません。
骨葬(こつそう)
甲府市周辺では、葬儀の後に火葬を行う「後火葬(あとかそう)」が一般的ですが、他の地域では葬儀当日の午前中に火葬を行い、午後から葬儀を営む流れが多いようです。
葬儀前に荼毘(だび)に付してしまうため、葬儀自体は遺骨を祭壇に安置して行う「骨葬(こつそう)」という形式になります。
葬儀から参列した場合は、お顔を見てのお別れができないため注意が必要です。
喪主(もしゅ)が複数人
日本国内でも長野県・山梨県・静岡県の中部地域特有の慣習として「複数喪主(ふくすうもしゅ)」があげられます。
葬儀の喪主は故人の配偶者や長男などが一人で務めるのが一般的ですが、山梨県を含む中部地域では「長男・次男」や「長男・長女の配偶者」など複数の喪主が並び立つケースがあります。
また「喪主:長女・施主:長女の夫」といった形式で長女が名目上の喪主を務め、実際には長女の夫が葬儀を取り仕切るといったケースもあるようです。
核家族化が進む現在では、長男が地元を離れ次男が家を継ぐといったケースも多く、葬儀の喪主を長男が務めた場合は「駆けつけ喪主(かけつけもしゅ)」などと揶揄(やゆ)されるケースも少なくありません。
また子供が女性のみの家では、他家に嫁いだ長女・次女で両親の面倒を見るといったケースもあります。
上記のようなケースで身内のもめごとが起こらないよう、故人の子供が連名で喪主を務める形式が生まれたようです。
以前とは「家」に対する考え方も変わりつつある現代では、合理的な解決法の1つといえるでしょう。
しかし葬儀後の祭祀承継者(さいししょうけいしゃ:お墓や仏壇を引き継ぐ人)が不明確になるなど、いくつかの問題も抱えているようです。
まとめ
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