葬儀社さんが知っておきたい国の健康被害救済制度

葬儀社さんも知っておきたい医薬品副作用健康被害

新型コロナウイルス感染症のまん延防止に向け、積極的なワクチン接種が推奨されています。
しかし、あらゆる薬品には副作用がつきもので、ワクチン接種により健康被害が発生する可能性はゼロではありません。

日本では万一の事態に備えて、さまざまな健康被害の救済制度が用意されていますが、国民全体に周知されていないのが現状です。
救済制度には健康被害の結果亡くなった方に対して、死亡一時金や葬祭費の補助なども含まれますので、葬儀社様も無関係という訳ではありません。

そこで本記事では、現在整備されている健康被害救済制度について詳しく紹介します。

ご遺族との事前打合せでは、健康被害によるご逝去の場合に備えて葬儀社さんもある程度の把握をおこなっておくことで、コミュニケーションを円滑に進められるかと思います。是非ご覧ください。

目次

予防接種健康被害救済制度

予防接種健康被害

感染症予防のための予防接種による副反応などの影響で健康被害が発生した場合、行政による救済制度が用意されています。
インフルエンザワクチンや新型コロナワクチンも、予防接種健康被害救済制度の対象です。

ワクチンの開発・承認までには膨大な数の臨床試験が行われるため、命に関わるほどの健康被害が発生するケースは多くありません。
しかしワクチン接種後に亡くなった方の中には、死亡とワクチンの因果関係が完全には否定できないケースもあるようです。

こういったケースに葬儀社様が遭遇する可能性はは少ないと思いますが、相談を受けた場合に備えて知識だけでも持っておいたほうがよいでしょう。

給付の種類と給付額(2022年4月改訂)

予防接種健康被害救済制度では、健康被害の程度に応じてさまざまな給付が用意されています。
また予防接種の対象疾病には、主に集団予防や重篤な疾患の予防に重点がおかれ、本人の努力義務や接種勧奨が行われるA類と、主に個人予防に重点がおかれたB類があります。

A類はジフテリア・百日せき・急性灰白髄炎(ポリオ)・麻しん(はしか)・風しん・日本脳炎 ・破傷風・結核・Hib感染症・小児の肺炎球菌感染症・ヒトパピローマウイルス感染症(子宮頸がん予防)・水痘・B型肝炎・痘そう(天然痘)・ロタウイルス感染症で、新型コロナウイルス感染症も、A類と同等の水準です。

B類に含まれるのは、インフルエンザや高齢者の肺炎球菌感染症となっています。
通常の季節性インフルエンザの予防接種はB類に含まれますが、新型インフルエンザが発生した場合は、新型コロナウイルス感染症と同様にA類と同等の水準になる可能性もあります。

A類・B類の給付種類と給付額

給付種類

申請方法

予防接種健康被害救済制度の申請先は、予防接種を受けた時点で住民票を登録していた自治体となります。
また給付金の申請には、別途用意が必要となる書類があります。

各種給付の申請書は厚生労働省ホームページの「予防接種健康被害救済制度について」から入手可能です。
もし喪主様から葬儀社様に相談があった場合は、情報を提供していただければ幸いです。

必要書類

給付の種類により、必要となる書類が異なります。

必要書類

詳細は厚生労働省のホームページにてご確認下さい。

医薬品副作用被害救済制度

医薬品副作用健康被害

医薬品副作用被害救済制度は、厚生労働省所管の独立行政法人医薬品医療機器総合機構が主体となり、すべての医薬品製造販売業者が拠出した基金を財源とする保険システムです。

病気やケガの治療に際して使用した医薬品の副作用により、過去には重篤な健康被害が発生するケースがありました。
こういったケースへの早急な救済のために、医薬品製造販売業者の民事責任とは別に医薬品副作用被害救済制度が設けられています。

処方箋なしで購入できる一般医薬品でも、副反応による重篤な健康被害が発生するケースがあり、死亡例も報告されています。
特に高齢者は加齢による肝機能の低下により、副作用がでやすいとされています。
葬儀の事前相談など、高齢の方との接点が多い葬儀社様も知識を持っておいたほうがよいでしょう。

該当する給付の種類としては以下のようなものがあります。

注1:医療費及び医療手当の給付の対象となるのは、副作用による疾病が「入院治療を必要とする程度」の場合です。
注2:障害の状態とは、症状が固定し治療の効果が期待できない状態又は症状が固定しないまま副作用による疾病について初めて治療を受けた日から1年6ヵ月を経過した後の状態をいいます。障害の状態が一定の重篤度(政令で定める1級又は2級)に達している場合に障害年金及び障害児養育年金の支給の対象となります。

また、制度に関する解説動画はコチラです。

https://youtu.be/eVBEz4037U4

給付の種類と給付額(令和4年4月1日現在)

医薬品副作用被害救済制度では、健康被害の程度に応じた7種類の給付が用意されています。
給付の種類と給付額は以下の通りです。

  • 医療費:健康保険等による給付の額を除いた自己負担分
  • 医療手当
    • 通院のみ(入院相当程度の通院治療を受けた場合)
      • 1ヵ月のうち3日以上:3万6,900円(月額)
      • 1ヵ月のうち3日未満:3万4,900円(月額)
    • 入院
      • 1ヵ月のうち8日以上:3万6,900円(月額)
      • 1ヵ月のうち8日未満:3万4,900円(月額)
    • 入院・通院の両方:3万6,900円(月額)
  • 障害年金
    • 1級:280万4,400円(年額)
    • 2級:224万4,000円(年額)
  • 障害児童養育年金
    • 1級:87万7,200円(年額)
    • 2級:70万2,000円(年額)
  • 遺族年金(10年間):2,452,800円
    *死亡した本人が障害年金を受けたことがある場合
    • 受給期間が7年に満たない場合:10年からその期間を控除した期間
    • 受給期間が7年以上の場合:3年間
  • 遺族一時金:735万8,400円
  • 葬祭費:21万2,000円

申請方法

医薬品副作用被害救済制度の申請先は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構です。
また給付金の申請には、別途用意が必要となる書類があります。

各種給付の申請書は独立行政法人医薬品医療機器総合機構ホームページの「健康被害救済業務」ページより入手可能です。
また診断書等も指定の書式がありますので、同ページから入手してください。

必要書類

  • 医療費・医療手当
    • 医療費・医療手当請求書
    • 医療費・医療手当診断書
    • 投薬・使用証明書又は販売証明書
    • 受診証明書
  • 障害年金・障害児養育年金
    • 障害年金請求書または障害児養育年金請求書
    • 障害年金・障害児養育年金診断書
    • 投薬・使用証明書又は販売証明書
  • 遺族年金・遺族一時金
    • 遺族年金請求書又または遺族一時金請求書
    • 遺族年金・遺族一時金・葬祭料診断書
    • 投薬・使用証明書又は販売証明書
  • 葬祭料
    • 葬祭料請求書
    • 遺族年金・遺族一時金・葬祭料診断書
    • 投薬・使用証明書又は販売証明書
  • 未支給の救済給付
    • 未支給の救済給付請求書
    • 請求しようとする種別の請求書類等

アスベスト(石綿)健康被害の救済制度

日本国内でアスベスト(石綿)を吸入することにより指定疾病に罹患(りかん)した方、または罹患して死亡した方の遺族として認定された方は救済を受けられます。
アスベスト吸入による指定疾病に該当するのは、中皮腫・肺がん・著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺・著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚の4種類です。

この制度は対象者が亡くなって以降でも、遺族による認定申請が可能となっています。
万が一、葬儀の際に遺族から相談を受けた場合は、当制度について情報を提供しても良いかと存じます。

なお石綿を取り扱う作業に従事されていた方は「建設アスベスト給付金制度」の対象になる可能性があります。

給付の種類と給付額

  • 指定疾病で療養中の方への給付
    • 医療費:健康保険等による給付の額を控除した自己負担額
    • 療養費:10万3,870円(月額)
  • 指定疾病で療養中の方が救済制度で認定後にお亡くなりになられた場合の給付
    • 葬祭料:19万9,000円
    • 未支給の医療費等:保険医療費の自己負担分のうち、医療費として被認定者に未支給の費用
    • 救済給付調整金:被認定者に対して支給された医療費・療養手当・未支給の医療費等の合計金額が280万円に満たない場合の差額

申請方法

アスベスト健康被害の救済制度を利用するためには、まずアスベストを吸い込んだことが原因で指定疾病に罹患したこと、罹患して亡くなった方の遺族であることについて、独立行政法人環境再生保全機構から認定を受ける必要があります。

認定を申請するには以下の書類を提出します。

  • 認定申請書
  • 住民票または戸籍謄本・戸籍記載事項証明書
  • 指定疾病に罹患している証明資料(診断書など)

環境大臣から医学的判定がなされた結果、対象と認定された方は地方環境事務所や保健所に申請を行います。

必要書類

  • 医療費:医療費請求書・受診等証明書
  • 療養費:療養手当請求書
  • 葬祭料:死亡診断書・祭祀を行う方であることの証明書
  • 救済給付調整金
    • 救済給付調整金請求書
    • 死亡診断書
    • 故人との関係を証明する戸籍謄本など
    • 故人と生計を同じくしていたことが証明できる住民票の全部証明書など

献血者の健康被害救済制度

献血の際の採血により健康被害が発生した場合に備えて、献血者等の健康被害の補償に関するガイドラインに基づいた「献血者の健康被害救済制度」が設けられています。

献血が直接の原因となる死亡事案は報告されていませんが、過去には献血後の転倒事故により亡くなった方もいらっしゃいます。
葬儀社様でも内容を把握しておいたほうがよいでしょう。

給付の種類と給付額

  • 医療費:健康保険等による給付の額を除いた自己負担分
  • 医療手当:入院・通院ともに1日目から給付
  • 障害給付:給付基礎額(8,900円)×各等級の倍数
    • 1級 1,192万6,000円(8,900円×1,340)
    • 14級 44万5,000円(8,900円×50)
  • 死亡給付:4,415万0,400円
  • 葬祭料:21万2,000円

申請方法

献血者の健康被害救済制度の申請先は赤十字血液センターで、健康被害を受けた本人または遺族が、請求書に必要書類を添えて持参または郵送します。

必要書類

医療費:医療機関からの領収書・診断書
医療手当:医療機関からの領収書・診断書
障害給付:障害等級が分かる診断書
死亡給付:死亡診断書・亡くなった方と請求者の関係が分かる資料
葬祭料:死亡診断書・亡くなった方と請求者の関係が分かる資料

新型インフルエンザ予防接種による健康被害救済制度

新型インフルエンザ予防接種による健康被害救済制度

2009年に発生した新型インフルエンザ(A/H1N1)への対応のために設けられた制度で、今後の新型インフルエンザ発生時にも、同様の対応がとられるものと思われます。
この制度は2011年3月31日に期限切れとなっていますが、参考のために情報は維持されています。

基本的な内容は「予防接種健康被害救済制度」と変わりませんが、給付金の額などは変動するようです。

参考までに、予防接種健康被害救済給付額(死亡一時金・葬祭費)の推移は以下の通りです。

死亡一時金

葬祭費

出典:厚生労働省ホームページの「予防接種健康被害救済制度について」

実際に新型インフルエンザが発生した際には、厚生労働省ホームページの「インフルエンザ総合ページ」を確認してください。

まとめ

今回紹介した健康被害救済制度は、亡くなった方の死亡原因によっては葬儀社様の業務に必要となる可能性が高い知識です。

制度内に設けられた「死亡一時金」や「葬祭費」については基本的に申請が必要となるため、遺族が制度自体を知らなければ本来受けられる救済も受けられません。
しかし葬儀の打ち合わせなどの際に、葬儀社様が遺族の相談にのってあげられれば、遺族の負担軽減につながる可能性もあります。

葬儀も終活の一部として捉えられるようになった現在では、葬儀だけでなくお墓探しや遺産相続・遺品整理など多様な葬儀周辺領域にも目を向ける必要があります。
予防接種や医薬品などの健康被害救済制度に関する知識も、そのうちの1つといえるでしょう。

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